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【ドキュメンタリー(2)DEAN FUJIOKA Musical Transmute Tour 2021】大阪ファイナル(2021.12.26 大阪 オリックス劇場)『⑧One Last Sweet Talk から ⑰Missing Piece まで』


【⑧One Last Sweet Talk】

「Darling just fell my kiss on the cold summer time…🎵」
前曲の『Sayonara』から暗転のまま、しばらくの間 余韻を挟み、「one,two,three,four」のカウントの後、 温かい雰囲気のライトがステージを照らすと、イントロなしで 歌声とピアノがスッと始まる。
懐かしい曲の心地良さに心を奪われていると、すぐのタイミングで「Can you still hear me now…」との新たに書き換えられた歌詞と「hey!」が入るから 従来の『Sweet Talk』ではなく新曲の『One Last Sweet Talk』な事がわかる。
本ツアーでは1番のみのライブアレンジになっているが「この命燃え尽きるまで…」のくだりは『Cycle』以前の原曲に存在している。今回のいきさつを是非ご本人に伺ってみたい。

このように『One Last Sweet Talk』は、従来の『Sweet Talk 』のいくつかの歌詞が書き換えられ、リズムが変異し、より大人っぽく よりエターナル感を増して生まれ変わった。「再説一遍」の歌詞が新たにシンコペーションを強調したリズムに変異し、One Last…「最後にもう一度だけ」の意味が加わる事によって 歌詞の中の2人の関係により距離感が生まれ、ロマンティック感がさらに上乗せされた。

前曲『Sayonara』の美しくキラキラした流れを引き継ぎ、ライトは 細かいオレンジ色の水玉模様が舞台上をゆっくり動いていく。
スクリーンでは宝石のような色とりどりの四角いクラゲのような模様が浮かびあがった。これは「Transmute~細胞レベルでの爆発的な変化」を連想させるのかもしれない。

Deanさんは舞台中央で手振りを加えながら爽やかに歌い上げ、ラストの「再説一遍」のところでは上の階を指差した。
間奏ではバンドマスターであり シンクマスターの木内プロのほうへ歩いて行き笑顔を見せた。旋律が繊細で美しい 金子さんのギターソロでは、Deanさんが両耳に手を当てて「聴いて!」という表情を観客に見せながら右から左へと舞台を歩いた。

【⑨SAKURA】

前の曲から途切れなくスムーズに繋ぎ、白根さんのドラムの軽快なリズムと共にいきなりサビから入る新しいアレンジ。
観客は以前のツアーのように イントロが鳴っている間に ブレスライトやペンラの色を ピンクに変える時間がない(笑)。
多くが それまでの色のままペンライト(またはブレスライト)を左右に振り、Deanさんの動きに合わせて曲を楽しむ。
サビの前では「カモン!」とDeanさんが声をかけて、手を左右に振りながら笑顔で舞台上を歩き回る。「You'll find your shining star…」で2階の客席を指差しながら頷いた。小林さんのテクニカルなピアノソロでは「聴いて」というジェスチャーで、耳に両手を当てて客席へ向かって頷いて見せた。

「やっと会えたな、大阪!今夜限りの一度切りの Musical Transmute、
最後まで楽しんでいこうぜ!」
エンディングでのDeanさんの呼びかけで、客席からは大きな拍手が沸き起こった。

【⑩Midnight Messenger - mabanua remix】


『Sakura』からシンセとドラムのリズムが繋ぐのは、懐かしい mabanuaさんのremix のイントロ!『Sakura』のMCで沸いた大きな拍手がそのまま手拍子に変わる。
懐かしくて嬉しくて、この状況でなければきっと大きな歓声が上がったに違いない。イントロに合わせて、手を前にクロスさせたり 横を向いて後ろに手を突き出したり ヒョウ柄のシャツで次々とポーズを決めるDeanさん。
ドラムの白根さんとキーボードの小林さん以外のミュージシャンの方々も手拍子を促して、会場の手拍子も盛り上がってきた。
歌はイントロを終えるとすぐにサビへ移行する よりポップなアレンジに変わっている。歌が始まると同時に天井を指さしてぴょんぴょんジャンプするDeanさんに、観客は一瞬あっけにとられるが、次の瞬間には観客も一緒になって 身体や心でジャンプするのだ!マスクの下の笑顔で!
間奏では舞台上の、黒い大型の四角い箱に足をかけて会場を見渡しながら一言。

「大阪のみんな!今ここにいる俺たちだけの物語、一緒に作っていこうぜ!準備はいいか?Let’s go!」

くしゃっとした やんちゃな笑顔で客席へ向かって声をかけた後も 激しい息で音がブレる事もなく、サビを歌いながらDeanさんは最後までジャンプする。
さらに、エンディングではピボットターンで左回り、次は右回りまで披露し、ここは私のお気に入りのチェック箇所の一つだった。ダンサブルなDeanさんの見どころがいっぱいで、客席の雰囲気も温度も 一気に上昇気流に乗る楽曲。演奏後は 客席から温かい大きな拍手がしばらく続いた。

【⑪Go The Distance JP Ver.】

舞台の上は 今までの地上から、宇宙空間のような広がりのある景色へと変異を見せ、この楽曲のように 次元の異なる2つの世界を壮大に表現しているようだ。
「流れ星をギュっと捕まえて」で手のひらをギュっと握りしめる拳。
前曲の高揚した雰囲気から さらにTransmuteして、Deanさんはここでもダンスを披露するが 今までよりも一層力強さを増している。
照明が眩しく点滅する中で、Deanさんの長い手足による大きな身体の動きやジャンプには、しなやかな身体の美しさを感じると同時に 身体能力の高さが並大抵ではない事を見せつけられる。
 
またここではDeanさんの演技力やMusicalならではの脚本が活きてくる。
この楽曲は元々、日本語のバージョンと中国語のバージョンの2つが存在するが、舞台上で中国語バージョンも融合させているのだ。
つまり曲の半ばに日本語と中国の台詞を同時進行させている台詞があるが、1人でパフォーマンスするから 敢えて分離させて両方表現している。
具体的には「意識 無意識 2つの世界 夢の通い路 繋ぐストーリー」の日本語バージョンを、舞台上手側で横向きのまま言った後に、右手を引っ張られるようにして反対の舞台下手側の異なる世界へくるりと入っていく。この異空間に入っていくところの身体的な動きと、驚いたような表情の演技が1つの見どころとなった。

台詞の後はマイクを両手に持ち、舞台中央で力強い熱唱が繰り広げられる。
エンディングでは、赤い光の中で、何かから逃げるようなダイナミックな動きを見せ、そして何かを見つけたようなハッとしたDeanさんの表情の後、何かに憑かれたように、あるいは悟ったように 無表情のDeanさんが右手を自身の前に水平に上げながら、眩しい光に導かれ舞台下手の舞台袖にゆっくりと消えてゆく。やがて舞台は何かが始まる余韻を残しながら暗転する。

◆Interlude(演奏タイム①)

暗転から暫くすると、ズーンという音楽と共に、ミュージシャンの皆さんのセッションが始まる。宇宙空間に ランダムに飛び交う無数の星がだんだん1点の中心をめがけて吸い込まれていくような画像がスクリーンに映し出される。音楽も宇宙空間を表すような表現。時々和太鼓や鹿威し、竹林に風が通り抜けるような和風の効果音が入っていて『Pure Japanese』感を取り入れているのがが興味深い。
この後2回目の Interludeで『Runaway』に続くまでのセッションは、ミュージシャン5人の中で 1人ひとりの自己紹介としてソロ演奏にスポットが当てられているが、この演奏タイムでは全員のコラボレーションが楽しい。
演奏はやがて『PlanB』の前奏へと違和感なく繋がっていく。

【⑫Plan B】

『Musical Transmute』の中で、Deanさんの書いた脚本や、役者であるメリットを最大限に活かしたパフォーマンスを発揮できるのが、『PlanB』から『Echo』、そして『Legacy』までの流れではないだろうか。

さて、PlanBの前奏が流れてもDeanさんの姿は見えない。
「愛しい人よ…」歌が始まると同時に、左手にハンドマイクを持ったDeanさんが 舞台下手から姿を現し、歌いながら舞台中央にゆっくりした足取りで歩いてくる。
印象深いのは全身真っ白な衣装。薄い白いリネンをまとったような衣装は、何枚か重ね着をしているようにも見える。
その姿は修行僧のようでもあり聖人のようでもあり判断は観た人に委ねられるだろう。
ゆっくりした歩みで歌いながら進み、1フレーズがちょうど舞台中央で途切れると立ち止まり、今まで横顔だった顔が ゆっくりとこちらを向く。空虚な目線は2階のやや舞台下手側を無表情で見つめ しばらくじっと佇む。そして次のフレーズが始まると 再び歌いながら舞台上手の先端まで進み、ゆっくり客席を向く。
Deanさんが舞台上手側、つまり舞台へ向かって右側で「Something  greater is waiting for you…」の歌詞を無表情で聴くと、やがてDeanさんをグリーンとピンクの照明が変わる変わる照らし始める。シンセサイザーの音がだんだん大きくなる。「Plan B, you'd better have it」の声を聴くと、Deanさんが右手で指し示す先のスクリーンには、燃える太陽のような天体が、コロナのような凄まじい炎を出して熱を発して光っているのが映る。凄まじいエネルギーを感じる映像だ。

Deanさんは「wow wow…」と歌いながら スクリーンの前に走り寄り 恐れおののいた表情で 太陽のような天体に近づき 思わず右目を押さえながら「目が見えない!」とでも言うような 恐怖と驚きに満ちた表情で観客側へ振り返る。そして苦しみのあまり膝から崩れ落ちるように床に座り込み、座り込んだままの姿勢で歌い続ける。
観客はこの迫真のパフォーマンスを固唾を飲んで見守るしかない。

間奏でDeanさんは立ち上がると、中央正面に出てきて腕を大きく突き出して回転する動作をする。すると死神(Deanさんが LucaismのDVDのメイキングで黒子達を死神と表現しており、クレジットには Ghost A/B/C/Dと記載)が巨大な何かを引っ張って下手から出てくる。
死神が不協和音と共に引っ張ってきた大きな丸い灰色の大玉は、『Runaway』のMVに出て来た大きな黒い球を思い起させるが、もっとずっと巨大で直径4m~5mくらいありそうだ。
空気で下から膨らませておりピンクとグリーンの照明に代わる代わる照らされている。大きく揺れ動いているところが不気味な物体である。

そのうち、この巨大な灰色の大玉から発射されたであろう、赤と白の光線がDeanさんを貫くと、やられたDeanさんは反射的に舞台下手のほうへ飛ばされて倒れ込む。
Musical、歌劇のようなオペラのような特性を活かした、お芝居とは言え壮絶なシーンだ。劇団(ミュージシャンの皆さん)からの細やかな効果音も 舞台に深みを生み出す。
やがて巨大な灰色の物体の中からはピアノが現れた。
このピアノは前回のツアーでも『Echo』の時に Deanさんが乗ったピアノと同じものだ。
Deanさんは膝を付きながら 片手を挙げて苦しみ悶え、手を挙げて助けを呼んでいるようにも見えるが、ついに力尽きたかというところで曲が終わる。

固唾を飲んで舞台を見つめる観客は 拍手も忘れてしまったようだ。
束の間の静寂を打ち破る 不気味な地鳴りのような効果音を合図に、Deanさんはピンク色の光に照らし出され 操られるように両手を挙げると、ゆらりと立ち上がり、大きな力で動かされながらフラフラと中央へ歩いて行くと、ピアノの椅子に前後逆で座らされる。ガシャーンという大きな効果音の中、赤いライトに照らされて ぐったりとうなだれるDeanさん。
静まり返り、舞台を見つめる場内。
やがてDeanさんは向きを変え、震える手でわなわなとピアノを捉えた。
しばらく上を向いて目を閉じ、そして体勢を整えてピアノの鍵盤に手を置いた。

【⑬Echo】

舞台上手から水平方向にDeanさんの背中を真っ直ぐに照らすスポットだけが当たるステージ。
ひと呼吸おいて、Deanさんが『Echo』のイントロをピアノで弾き始める。
やがて、Deanさんの静かな「wow wow…」の歌声が会場の空気を震わせる。
時々手元を見て弾きながら歌う姿に、客席はしんとしたまま聴き入っている。「…live in」までの弾き語りを終え 右手をサッと挙げると Deanさんが白い光に包まれ、ミュージシャンの方々のブチ上げ演奏が始まる。

Deanさんはマイクを持って立ち上がり、歌いながら舞台下手のほうへ歩いてくる。
ライティングはグリーンには白い水玉、オレンジには白い水玉が回転していくが、Deanさんが手を挙げる瞬間だけは絶妙に赤く変わる。
「Just tell me why…」と舞台の中央に移動したDeanさんの熱唱が続く。
首に向けてシュッとSip on Echoを切ると 赤い光が照らし出し、Deanさんが音に合わせて右に左に手をかざすと、赤い光の中で白い檻の中に閉じ込められるような光の演出。

エンディングでは、ミュージシャンの皆さんが「wow wow…」と繰り返し、ギターのうねりに嵐のような効果音も加わり、観客がブレスライトやペンライトや自らの拳で反応する中、Deanさんはひらりとピアノの上に上がると、やや斜めの向きで慎重に足の位置取りを決めてすっくと立ち上がった。
ピアノの上に立つ事によって 少し目線の位置が上になったが、ちょうど2階の下手寄りの天井を見つめているようだ。

次の瞬間 思ってもみない事が起きる。
天井の9本の白色スポットライトが一斉にDeanさんの頭頂部に集まり 照らしたのだ。
すると頭のてっぺんから足の先端まで、白い服は身に付けているが、顔も髪も腕も 全てが真っ白なDeanさんが浮かび上がる。
何という、ドラマティックな光の演出!

その直立不動の姿は、神のようで 天使のようで 救世主のようで、その神々しさはこの世のものとは思えない…。
Deanさんは無表情で2階の斜め上を見つめたまま全く動かないが、吸い込まれていくような、導かれていくような、不思議な間隔に陥る。
Deanさんを見て、ミケランジェロのダビデ像が思い浮かんだ時に、Deanさんのインパクトがありステージ映えのするパーマヘアのスタイルの謎が解けたようでもあった。
また、天使に見える時は、映画『ベルリン天使の詩』のダミエルや、モン・サン=ミシェルのてっぺんを守る大天使ミカエルのようでもある。
冷静に見れば フジオカ教の教祖、それを崇め奉る信者たちにも見えるかもしれない。
wowの合唱は続き、背後のスクリーンでは灰色の雲が嵐のような効果音で渦を巻き、金子さんのギターのうねりを筆頭に徐々に盛り上がっていく音が最高潮に達すると音楽が止み、舞台はドラマティックに暗転した。


【⑭Accidental Poet】

『Echo』の華麗でパワフルなエンディングから我に返った観客の、大きな拍手と余韻の中、暗転した舞台上では、 Deanさんがそれまで立っていたピアノの上に注意深く腰を下ろし、舞台上手のほうを向く形でピアノの上に左足を立てて座った。
リードの伴奏が入る。
白いスポットライトの光はピアノの上に横向きに座ったDeanさんとシンセサイザーの小林さん、2人だけを映している。白いスポットライトはやがて美しい光のストライプを描き出し、絶望から救済、あるいは死から再生への道しるべのようだ。

歌が始まると、Deanさんのブレス(呼吸)も この楽曲の1部であることを認識させられる。
1フレーズ歌うたびに、Deanさんの右向きの姿勢はじりじりと正面に向き直ってくる。
2番になると ほぼ正面を向いて歌う体勢になり、片手を手振りしながら歌うのが良く見えるようになる。
「Shed light on…」をリフレインする箇所になると、Deanさんは ピアノから降りて舞台中央で歌う。この時、歌うたびにミュージシャンの方々がスポットライトを浴びながら1人1人と起立していき、最後はキーボードを弾く小林さん以外全員が立ち上がることで、教会のようなおごそかさを感じる演出となっている。
Deanさんには白い光が縦横に、まるでチェック柄のように当たり、最後に右手を天へ差し出すと、後ろから光に照らされたシルエットが美しい余韻となって残った。

【⑮Legacy】

前曲でのチェック柄のライトが左右中央で1つになりDeanさんを照らした。Deanさんは左手をゆっくり上げ、緩急をつけて顔の半分を演劇的に覆った。
コバルト色の背景に、横から白い光が深く差し込むと、パイプオルガンの音色のようなイントロが始まる。ドライアイスが作り出す光のマジックで 舞台上には白と赤の十字架が現れた。花びらのようなライティングが壁と天井に映り、回転しながら動き始める。
Deanさんはゆっくり左手の手のひらを顔から離すと、光の方角を向き、まるで初めて目が見えた人のように眩しい表情を浮かべた。これは、まるで神を見出したようなシーンと言っても良いかもしれない。
そして舞台中央に立ち、顔を舞台下手のほうへ向けて歌い出す。
この楽曲は 信仰者ゆえの苦悩を描いているが、前方の天を指さしながら歌う姿は、神との繋がりを追い求め、天国へ歌を捧げているようにも見受けられる。両手でマイクを持って歌う立ち姿と 白い衣装のシルエットは天使のように美しい。
2番になると、舞台下手側に移動し観客へ向けて気持ち良さそうに、豊かな歌声を披露した。
前方の大型スクリーンでは渦巻く曇り空を映していたが、曲が進行するにつれて次第に雲が薄くなり、いつの間にか晴れて青空になる様子が描かれている。
エンディングで Deanさんがピアノのほうへ手を差し延べると、先ほどの4人の死神が現れた。彼らはピアノに縄をかけると、ピアノを引っ張って元 来た道を帰っていった。Deanさんは観客に背を向け、表情は伺い知れないまま曲を締めくくった。

【⑯Sukima】

『Legacy』が終わると少し静寂があり、前奏無しで「Why don’t you say I love you」と歌が始まった。真後ろから照らす、スポットの逆光が美しい。シンプルなピアノの伴奏から始まり、サビから後半へかけては壮大かつエモーショナルに展開される。
1番は舞台後方で歌うため、正面スクリーンには歌うDeanさんが映し出された。2番では舞台前方で歌うため正面スクリーン映像はなくなる。
照明はグリーンの三角形の模様が移動しながら、舞台から両側の壁へ映し出されるものだった。

『Sukima』は 2021年11月13日㈯のラジオ番組『Roppongi Passion Pit』で初オンエアとなったが、それまではライブ中に手書きのノートに歌詞を書き取って覚えた。

コ ロナ禍を思い起こさせる歌詞で、スマホがないと生活できない現代のLove Songに聴こえた。かつて写真は破り捨てるものだったけれど、今や写真は「握りしめる」ものであり「消す」もの。生活様式の変遷によるそんな情緒も感じた。「はなればなれね」「会いたい」は会えないご家族へ向けてとも受け取れるのが切ない。
「光よ この道いま照らして」と最後に付け加えられた歌詞は「道照らす人」だった「あさが来た」の五代さまを思い起こさせ、「光が道を照らす」という表現は、神が人を導く上で聖書の中でもポピュラーな表現であり、Deanさんの宗教観や哲学を窺わせる一節となっている。

アルバム『Transmute』は、従来のアルバムよりも 全体的に音数を減らして作られ、Deanさんの新たな境地を伺い知ることができる。また、日本語の楽曲が豊富なので日本語人にダイレクトに訴えかけるところが嬉しい。
『Sukima』については、ライブの音は、音源よりも遥かに広がりを見せて、より感情を掻き立てるエモーショナルな表現に仕上がっている。

この曲のラスト、Deanさんはハンドマイクで歌い上げると、小林さんのピアノの後奏に合わせて 手を空へ差し伸べ、何かを掴んだあと数歩前に出る演技を見せる。その姿には希望を感じた。

【⑰Missing Piece】

Deanさんのたっぷりした歌声が 会場いっぱいに響いたら、天国が空から落ちてきそうな響き。イントロのポップな雰囲気とDeanさんの包容力ある声のミックスが心地良い。

「はじめよう今 幸せ夢見たなら」のインパクトある出だし。傷ついた心をそっと救い上げてくれる詞の世界に慰められる人は少なくないだろう。
ライブでは「私に構わないで、嘘」と歌った後に いつも必ず 少し口元が微笑み、「So what now」の後も少し微笑む事があり、この2つの「微笑みポイント」は、私にとっての定点観測地点だった。
サビの部分のコーラスが温かい。
最後の「は~じめよう今」は、鹿児島公演と東京①公演は「は~」を1拍分多く伸ばしていたが、東京②公演以降は元に戻しており、ここで何らかの実験があった事は間違いない。
ライブでは温かいオレンジ色の照明に白いスポットライトに照らされて、舞台下手に近い位置で歌い終わった後は、左周りにひらりと白い衣装に包んだ身を翻して 舞台袖へ消える姿がカッコよかった。

2021年10月30日(土)のラジオ、Roppongi Passion Pitではこの楽曲について「どうしても満たされない1個だけ欠けているピース。家出の少年少女をイメージしている」と語っており、この曲の持つ多幸感とのギャップが興味深い。

また、アルバム『Transmute ” Lucaism ”』の特典DVDでは、Musical Transmute Tour 初日の埼玉公演後のインタビューがあり「『Sukima』で精いっぱいで 『Missing Piece は残りかす』(余力)」とDeanさんが仰っていたのには驚愕した(笑)。


ドキュメンタリー(3)Interlude~Runaway⇒My Dimension
/Fukushima へ続く

☆ヘッダー写真は公式HP Twitterよりお借りしました。いつもありがとうございます。