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"I wish I can fly"

そろそろ夜が明けそうな、シャルルドゴール空港にて。

単身で渡欧した私は、会社の大好きな仲間ともうすぐ離れなくちゃならない寂しさや、夫から離婚を申し出された悲しみで、心が晴れぬまま到着。

大切なものを失う不安、別れに対する未練、本当はずっと一緒にいたい葛藤。表面上は何事もなかったかのように振舞いつつも、漠然とした不安を隠そうとする矛盾した感情。

春真っ盛りのパリに到着したのにも関わらず、思考に霧がかかったような気分で、とてもじゃないが花の都パリに着いたことにも苛立ちを覚え始めたその時、ふと機内の窓から、それを感じた。

それは、鋭く尖った機首から、長く細身のボディに、両脇には流れるような曲線を描くデルタの形をした翼が備えられていた。そんな独特で、流麗なフォルムに、さっと黄金の光が地上の向こうから差した。

コンコルドだ。

エールフランスとあったその機体に目が釘付けになった私。

すると、すぐ傍で今度は、これまた度肝を抜くような大型貨物機が離陸した。あのFEDEX機は、ボーイングなのだろうか、エアバスなのだろうか、どちらなんだろう。いつの間に、胸が躍るような気持ちで食い入るように窓越しから見ていた。

すると瞬く間に頭の中でたくさんの感情が溢れ出した。

“I wish I can fly”

空を見上げながら、何世紀ものあいだ、人々はそう言い続けてきた。1903年、人類で最初に空を飛ぶことに成功させたライト兄弟。その後の世界の産業形態を激変させ、科学や物理といったものが発展して、地球の自転よりも速く飛べるものまで創りあげ、そうやって人々の夢が実現されてきた。

無理だと言われても、後ろ指差されても、何度も失敗を重ねても、大空への憧れや、大きな信念、諦めずに逆境をバネにすれば、夢は叶うんだという、そんな象徴が、それだった。

人間が空を飛ぶなど、という夢物語。

“I wish I can fly” は、夢を抱き続ける者だけに与えられた情熱で、人は夢なくして、人として成長できないし、人が成長しなければ、新しい発見や、人生の楽しさも見出せない。ならば、夢を持とう。

会社の仲間から離れることがなんだ、次で輝けばいい。

家族から離れることがなんだ、次で輝けばいい。

新しい夢を持とう。

パリの朝の空気は、それは爽やかで、

私の足取りは軽やかだった。



-ER

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