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「Inspired by MONET」色彩の重なりをレザーへ。

「山口さん、モネ好きだよね?」
副社長の山崎からそう聞かれたのは1年くらい前。

「え?睡蓮の。大好きだよ。パリでも何回も見てたよ。」

「コラボの話があるんだけど。」

「え?なに?モネと?」

「モネが上野の美術館にくるらしくて、主催者がマザーハウスにグッズを一緒に作ってもらえないかって依頼が来たんだ。」

「えええ!!!!Inspired by MONET?!!! 絶対やりたい!!」

後からB-Bを担当するスタッフに聞いたのは、私たちがずっと販売してきたグラデーションレザーの小物を、マザーハウスのどこかのお店で見てくれたらしい。その色彩がとてもモネの色彩に通じる美しさがあると思い、声をかけてくださったという。

その経緯を後から知って本当に感慨深かったのだが、もう少し詳しく聞くと、当初その方は「既存のグラデーションで美術館のグッズコーナーで販売するものを作ってもらえませんか?」というお声だけだったらしい。

しかし、私は聞いた瞬間に「おし、モネさんに恥ずかしくないような、オリジナルレザー作るぞ!」と気合を入れてしまったのだ笑。

私は、かなり美術館が好きだ。
子供が生まれてからなかなかゆっくりと音声ガイドを聞きながらは見れないけど、月1度ー2度は国内外限らず訪問しているように思う。
ただ、「グッズコーナー」に自分達の商品が置かれることを考えた時、改めて今まで自分がグッズコーナーに対して抱いていた感情をもう一度思い出してみた。

展示されている美術作品に感動したテンションで「何か買いたい!」と思っても、結局これまでグッズコーナーで買うことは滅多になかった。
それはほとんどが、絵画を解像度低くプリントして、大量生産したTシャツや袋物だったりして作品の「切り取り方」がとても雑であることと、それを商業的に落とし込む手法自体にテンションが異常に下がってしまうことが多かった。美術作品への熱が高まれば高まるほど、グッズコーナーは、現実に引き戻されるクールダウン効果を毎回脳内にもたらしていた苦笑。

「モネが見ても、"OKです!"と言ってくれるような物を作りたいなあ」と思った。それが今回のゴールだ!と私はデザイナーとして設定した。

もちろん、私はアーティストではなく商業の職業デザイナーなので、お客様が買える価格に厳しく落とし込むことは必要だと思う。けれど、もし、作者さんが生きていて、そのグッズを見て怒り出すようなものはなんだか、作ってはいけないなって思ったんだ。


早速、300人が働くバングラデシュ自社工場と、提携するなめし工場のパートナーに連絡をし、モネの代表的な作品の画像をLINEで送った。
かなりの量送ったのだが、”既読”表示がされた後電話をした。

「絵を見た?この絵を革にしたいんだ。」

「・・・。ふふふ。」と苦笑いなのか、呆れた感じなのかわからないが笑っていた。

「ふー、絵理子さん、送ってくれたモネの絵は素晴らしいし、このコラボ企画は素晴らしいよ。ただ、この絵を革にするってどういうこと?プリント?花とか草とかあるけど。」

「違う違う。絶対にプリントなんてしない。そこじゃないよ。大事なのはモチーフじゃない。”色彩の重なり”なんだよ。それを表現するんだ。」

彼の代表的な絵には、紫ベースのものと、緑ベースのものが2種類ある。
紫は分解すると、ピンクやイエローが重層的に積み重なっているし、緑のものは水色や青が見え隠れする。

「うーん、ちょっと宿題にさせてくれ。」
「うん、わかった。」

それから数ヶ月彼らはなめし工場で実験を繰り返してくれたが、もちろんうまくいかなかった。
そこで「原皮を変えよう」という判断を私たちはくだした。

原皮とは革の元になる皮。なめす前の皮のことをいう。実は最も大事になるのが、「革の皮」なんだ。その皮のグレードを変え、植物由来のなめし方を選び、色彩がより繊細に鮮明に表現できるものを”作る”ことになった。

植物由来のなめし工程を施したのは、後から浸透させる色の発色が極めて良いことがわかったからだ。

そこから色彩の調合に入る。
「手でやるしかないよ。」
「うん、任せるよ!」と私が笑顔で背中を叩き、後ろから技術者の選び出す色に逐一意見を言ったりしながら一緒にやっていた。

「最初の段階では紫のベースを行う。その後に青に、さらに黄色で、その後は、・・・・」という感じで8回ほどの工程を行う。

そのレシピを何パターンを出しながら、乾かし、見比べ、また色彩を調合し、を繰り返した。

一枚一枚本来自然乾燥なのに、時間がないため小型のドライヤーを持ってこい!と言って、サンプルはみんなドライヤーを持ちながら行った笑。

革1枚で見た時は、良くても、製品になったときにどう見えるかはまた異なる時が多いため、実験場で小物の型紙を用意してその場で裁断したりもした。

最終的に理想的な色彩が出来上がったのはスタートしてから約8ヶ月くらい経った時だ。

「これだね!」みんなでそう言い合ったのだが、
「でも、これ完全に手仕事ではできたけど、本生産どうする・・・?」
「今までのプロセスが機械でできるなんて僕には想像できない!」
「ということは、オールハンド?!(全て手仕事?!)」
深く、複数回うなづいた。

「プライシング(革の価格)がすっごい怖いんだけど・・・」と私が言ったら、マムンさんが「今はその心配はやめよう!!!」と言い出して爆笑しあった。

なんだか本当にこうやって現場で実験をしていると、充実感というか幸福感というか、これが生きているってことだよなあって思う瞬間がある。
仲間と共に夢を見て、具体的なアクションと実験を積み重ねて、小さなハイタッチを繰り返したり、そのプロセスで議論したり、笑いあったり。

モネは画家だからきっと孤独な色彩の追求の時間が長かったに違いない。
そして向き合ったのは自己だったのに違いない。

私は、尊敬をしつつも、自分が仲間と、お客様のために、誰かが使ってくれるものを作れる幸せを抱いた。

アーティストとデザイナーはしばし比較されたりするが、私は誰かのために作りたいなあ、そして誰かと一緒に作りたいなあ。そのプロセスに内包される美しさを求めながら。

汗びっしょりになって自社工場に帰る車中、そんなふうに思った。


-------上野美術館とのコラボレーション企画概要と展示会のご案内-------

▼詳しい情報はこちら

https://www.motherhouse.co.jp/blogs/news/23101201

▼コラボレーション商品のご購入について
10月20日(金)より、展覧会会場またはマザーハウスの店頭、オンラインストアでご購入いただけます。

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