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運命を決める、一枚のサマリー。

前回のミーティング時に代理人のN氏(以後Nさん)は、3月に行われるロンドンのブックフェアに行くと、Yさんから聞いていた。

それにあたり、A4一枚のサマリーをNさんが作ることになった。

私からも経歴や日本での出版状況や、今の事業をどうみているか、また複数の写真などの提供をした。

どんなサマリーができるのか、ちょっと緊張しながら待っていたら、ある会議の中で、Yさん経由でNさんからの指摘をもらった。

「結局、起業の物語は米国でも山ほどある。特に黒人女性のテック系の起業物語は、壮絶な生い立ちから数億ドルの大成功まで、成り上がるみたいな話は人気でたくさんある。そういった意味で、起業ではなく、18年間どのようにして生産地を増やし、異国の人たちとここまで作り上げて来れたのか、それがおそらく読者の興味になる。だが、そのストーリーがあまり書かれていない。」と言われた。

私は、内心「おっしゃる通りでございます。」とつぶやいた笑。

黒人女性の企業などに関する本


「裸でも生きる1」や2・3も、ある意味、18年間の中では最初の10年で、主に起業物語だ。今回英訳した1に関しては、3分の1も私の幼少期が書かれてしまっている。

「日本では10万部以上売れているが、環境や社会の状態が米国とは全く違うため、そういった内容だと、おそらく米国では刺さらないだろう。」という指摘だった。

この時私は、「米国には米国向けに、18年間を総括するような内容に書き換える必要性」を覚悟した。

なぜなら自分でも、その国にあった形に変換するのは当然やるべきことだろうという考えは持っていたので、今回は最終章を追加しただけに留まってしまっていたことに対して、違和感やモヤモヤもなかったわけではない。

なので「書き直しになるとしたら、私は頑張ってやろうと思いますが、キャシーさんのことも考えると、数年単位でかかってしまうと思います。」と会議の中で伝えた。

それくらい、書くのも訳すのも、労力がいる作業だったので、半分落胆な状態だったし、プロジェクトカレンダーを見ながら、こんなに早く物事が動くはずないか、、、と思っていた。


とりあえずNさんが作成するサマリーを待つことにした。

3月中旬にロンドンで行われた「ブックフェア」は、来場者が3万人で非常に盛況だったとYさんが教えてくれた。


会期中は、出版社が面白そうな企画を持っている代理人のブースに行き、出版に関してヒアリングのできる場所になっている。
もちろん、会期中に全ての本の内容を読み込むことは、出版社にとって不可能。
なので、このA4一枚のサマリーが運命を決める。

だから、私は、Nさんのサマリーの内容がずっと気になっていた。


そして、ブックフェアの会期中に、Yさん経由でサマリーが送られてきた。

ドキドキしながら、PDFを開いた。

すると・・・・・。
プロセスの中で指摘していたポイントとはまるで真逆の内容だったのだ・・・。


「ビジネス本ではなく、これは自伝だ・・・」と感じた。


その通り、ジャンルの欄には一番始めに「MEMOIR(伝記)」と書かれていた。



サマリーの中で、彼が最もハイライトしたセンテンスが、これだった。


"Just a short while ago I'd been ready to give up and go back to Japan, convinced there was nothing I could do in this country, the poorest in Asia, plagued with floods and corruption, where the light of hope never seemed to shine. But now, taking even one step forward seemed more important than anything else in the world."

(日本語訳)希望の光が見えない、洪水や汚職ばかりのこのアジア最貧国で、私にできることはないと諦めて日本に帰ろうと思っていた。でも今は、一歩でも前に進むことが、この世界で何よりも大事なことなんじゃないかって思っている。


最初は、起業や事業的な本だと認識していた彼が、実際のサマリーで、この部分をハイライトした意図・・・・
そこに、私やマザーハウスの本来の価値がある気がして、すごく心がゾクゾクした。


そして、サマリーの最後の文章を読んで、涙が出てきた。


"This book is absolute proof of the old saying that if you can dream it, you can do it."

(日本語訳)この本は、まさに、古くからの諺である「夢を見ることができれば、それは実現できる」という言葉の証明である。

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