見出し画像

『実践!インサイトセールス』

2019/10/21
vol.6
『実践!インサイトセールス』 高橋研 著

インサイトセールス

 プロダクトライフサイクルの短命化が進んでいる今、「売り手の立場」が「買い手の立場」より圧倒的に弱くなっている。そのような市場において、今までのやり方ではモノは売れない。
 本書が提唱する「インサイトセールス」とは、「お客様が認識できていない環境変化を捉え、それを踏まえた先回り提案をする」という新しい営業スタイルである。
 以下、「インサイトセールス」について具体的に述べていく。

〜Topics〜
1.従来の営業活動
2.「インサイトセールス」とは
3.「インサイトセールス」に必要なスキル
4.まとめ

1.従来の営業活動

 日本の営業スタイルは、時代とともに変化を遂げてきた。
以下がその変遷である。

1.「物売りの時代」
└戦後まもない頃。モノがない時代には、「良いモノ」を作ることが勝利の鍵を握っていた。

2.「個人力の時代」
└高度経済成長期。モノが増えてきたことにより品質の良さだけでは売れなくなってきた。そこで、それを誰が売るかも重要な鍵になった。つまり、営業パーソンの人柄や状況対応力、情報収集力も求められるようになった。

3.「ソリューション営業の時代」
└バブル崩壊後、経済低迷期。使える金が限られる中で、営業パーソンの個人力だけでは売れなくなっていた。そこで誕生したのが、課題解決の提案方営業である。お客様が何に困っているのかを正確に聞き出して、その解決策を適切に提案する。

 しかし現在、多くの営業パーソンが次のような状況に直面している。
「お客様の課題を正確に把握して適切な解決策を提案しているにも関わらず、それをすぐに買ってもらえない。」
 その原因は、競合会社も同じことをしているからである。売る側はコンペ状態から抜け出せない。
 しかも、次々に次世代の製品が市場に現れ、プロダクトライフサイクルはますます短命化している。売り手にとって極めて厳しい市場状況になっているのである。

 このような現代の状況において、新しい営業スタイルへの転換が求められるようになった。そこで登場したのが 「インサイトセールス」である。

2.「インサイトセールス」とは

 「インサイトセールス」の詳細に入る前に、まず従来の営業スタイルから“転換”するべき4つのポイントを整理する。

1.ターゲット企業
<従来>
川下、川中営業
└解決すべき課題が具体化しており購買意欲も高い(見込み顧客)
※手っ取り早く見込み顧客の数を追う「量の営業」
<new>
川上営業
└まだ課題が明確になっていない川上へのお客様へのアプローチを強化する
※より大きな成果に発展する可能性のある企業をターゲットにする「質の営業」

2.会うべき相手
<従来>
お客様側の現場担当
<new>
経営トップ

3.話の中身
<従来>
担当者が現時点で抱えている課題やお困りごと
<new>
経営理念や事業ビジョン、その中から見えてくる経営トップの価値観

4.提案の中身
<従来>
目の前の課題に対する解決策
<new> 
未来に向けた提案
└お客様経営層から徹底傾聴した理念・ビジョンの実現を支援するための提案や、お客様がまだ認識できていない環境変化を見込んだ先回り提案

-------------------------------------------------------------------------------

 ここからは「インサイトセールス」について具体的に述べていく。

 「インサイトセールス」とは、以下のような営業スタイルを指す。

「インサイトセールス」
「顧客すら気づいていない顧客の課題」を見つけ、顧客と合意をして行っていく営業

 前提として、インサイトセールスには「先見性のある提案」が欠かせない。
「先見性のある提案」とは、以下のように顧客の経営方針(①②)に訴求するものである。

①ビジョンの実現
お客様のビジョンの実現に向けて提案する

②環境変化への適応
お客様が晒されている環境の変化を先回りして提案する


インサイトセールスは、おおよそ以下のような道筋を辿る。

1.
営業パーソンが、お客様企業の担当者にインサイトセールスを行いたい旨、説明し同意を得る
*Point
・目的を正しく伝える
「弊社の商品のご提案に先立ち、経営におけるご意向やご意志を御社経営トップから直接伺いたい。」

2.
顧客企業経営トップとの面談を申し込む
※企業規模によってはここから開始

3.
顧客企業経営トップとの面談に臨むための社内調整を行う
*Point
・自社の上位職者を巻き込む

4.
顧客経営トップに関する情報を収集する

5.
経営トップとの面談で、経営理念やビジョンを傾聴する
*Point
・価値観について聞く
└「何を大切にしているか」と「何を目指しているか」を聞く。
・戦略について聞く
└「注力したい領域」「伸ばしたい強み」「ターゲット」「提供したい価値」

6.
ビジョン実現のための提案をする
*Point
・話の次元を下げない。課題に合意した後すぐに解決策を提示するのではなく、「その課題を解決した先に、どういう会社像を描いているのですか?」と次元をあげる。具体的な解決策は最後に。その方が提案に対する「共感性」が増す。

〜話の流れ〜
⑴戦略や業務上の課題を聞き出す
⑵経営理念やビジョンを聞き出す
⑶経営理念やビジョンを実現した際の世界観やそれを描くに至った経緯を聞き出す
⑷理念やビジョンを実現するに当たって伸ばしたい強みを聞き出す

7.
受注したい自社商品・サービスについての提案をする


3.「インサイトセールス」に必要なスキル

 以下、インサイトセールスに求められるスキルについてまとめる。

1.価値の訴求力
・伝えるべき価値は3つ
 ①話の中身についての価値
 ②自社ならではの価値
 ③今である価値

2.顧客理解力
・顧客理解には2種類ある
 ①間接的顧客理解…事前調査に基づく
 ②直接的顧客理解…対面コミュニケーションに基づく

3.プレゼンテーション力
・プレゼンの骨格は以下の通り
 ①表紙
 ②環境整理
 ③課題整理
 ④課題解決のソリューション提案
 ⑤見積概算

4.クロージング力
・クロージングの目的は「Yes」なのか「No」なのかをはっきりさせること

5.アカウントプラン
・お客様のカルテ
→お客様の情報に対応させる形で、自社はどのような関わり方ができるか、何を提案するか、想定されるリスク、その予防策などを整理する

6.人脈形成力
・営業における人脈形成において大事なポイントは以下2つ
 ①培った人脈を維持すること
 ②正しく紹介されること

7.調整力
・特に重要なのは、「社内調整」する力
→積極的に周囲の人を巻き込む


4.まとめ

 インサイトセールスは、営業パーソンが今日の条件競争から抜け出す鍵であり、同時にAI時代に生き残る道でもある。それだけでなく、インサイトセールスに必要なスキルを磨くことは、営業パーソンにとっての自己成長、自己開発にもつながるはずである。
 中でもインサイトセールスの醍醐味は、多くの経営者と対話できることにあると言える。経営者の持つ価値観は千差万別である。若い頃から数多くの経営者と接し、彼らの価値観を傾聴して共感することを繰り返すと、経営者視点が養われることはもちろん、物事を捉える観点も加速度的に増えていくはずである。また、様々な価値観と対峙することで、自分自身の価値観を見つめ直す機会も増える。インサイトセールスは、営業パーソン個々人のキャリア形成を加速させる経験にもなるのである。
 営業パーソンにとって、自身の営業活動のパフォーマンスをあげることはもちろん重要だが、それ以上に自分の人生を豊かにするためにも、ぜひ「インサイトセールス」を実践してほしい。