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『ウォー・フォー・タレント』

2019/10/14
vol.5 『ウォー・フォー・タレント』 
エド・マイケルズ ヘレン・ハンドフィールド=ジョーンズ 
べス・アクセルロッド 著

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 産業構造が製造から情報へと移り、高度な管理能力が必要とされる現代においては、企業が有能な人材を確保することの重要性がますます高まっている。本書では、マッキンゼーの調査に基づき、「なぜ人材を重視すべきなのか」「いかにして有能な人材を集めるか」「その人材をいかに育成するべきかについて、5つの法則に従いながら述べていく。

~Topics~
1.人材獲得競争(ウォー・フォー・タレント)について
2.「第1法則:マネジメント人材こそ経営層の要件」
3.「第2法則:人材を引き付ける魅力の創出」
4.「第3法則:リクルーティング戦略の再構築」
5.「第4法則:マネジメント人材が育つ組織」
6.「第5法則:人材マネジメントにおける選択と集中」
7.まとめ

1.人材獲得競争(ウォー・フォー・タレント)について

Keyword
「タレント」
あらゆるレベルで会社の目標達成と業績向上を推し進める、有能なリーダーとマネージャー

 「人材育成競争」は、1980年代の情報時代の幕開けとともに始まった。その後、産業構造の変化とともに激化し、いまや、人材こそが企業の業績を押し上げる要因である、と言われるようになった。

 「人材育成競争」を激化させる基本的な要因は以下の3つである。

<人材育成競争を激化させる要因>

⑴工業時代から情報時代への移行
└情報時代になり、優秀な知識労働者が多く必要とされるようになった

⑵優れた経営能力を持つ人材への需要の高まり
└産業の競争原理が刻々と変化する時代において、「世界的や視野を持つ起業家タイプ」や「技術に詳しいマネージャー」、「社員の意欲を引き出すリーダー」といった優秀人材の需要が高まった

⑶転職志向の高まり
└会社が高度なスキルをもったマネージャーを必要とするようになると、マネージャー側も自分の会社を変える利点を感じるようになった

 日々激化する人材育成競争に勝つための指針として、マッキンゼーは以下5つの法則を提示する。

第1法則:「マネジメント人材こそ経営層の要件」
第2法則:「人材を引き付ける魅力の創出」
第3法則:「リクルーティング戦略の再構築」
第4法則:「マネジメント人材が育つ組織」
第5法則:「人材マネジメントにおける選択と集中」

 人材育成競争は、「戦略上の転換点」であるということを多くの企業が見逃している。これは今後のビジネスシーンを決定するほどの影響力を持つ。人材育成競争はすべての企業にとって大きな課題ではあるが、早い時期から積極的に取り組めば、競争での優位性を獲得する大きなチャンスにもなりうる。
 以下、各法則について具体的に述べていく。

2.「第1法則:マネジメント人材こそ経営層の要件」

 企業が人材育成競争に勝つためには、あらゆるレベルのリーダーおよびマネージャーが、「マネジメント指向」を持つ必要がある。

「マネジメント人材指向」
「優秀な人材」こそ競合優位性を確立するための重要なリソースであり、
優秀な人材が業績向上のためのすべてのレバーを引き上げる、という認識

  リーダーは、自分のチームを強化するのに加え、組織全体としても人材が強化されていることを確認する必要がある。
 組織の奥深くまで影響力を浸透させるためにリーダーが取るべき行動に以下の6つがある。

①最も基本となる人材の要件を決める
②組織内の社員の評価・処遇には、深く積極的に関わる
③シンプルだが徹底した人材評価プロセスを徹底して植え付ける
④組織内のすべてのマネージャーにマネジメント人材評価プロセスを徹底して植え付ける
⑤資金を惜しまず、人材に投資する
⑥自ら構築したマネジメント人材層の強さに対する責任を、その人材と彼らの上司であるマネージャーが負う

 リーダーが時間を創出することは容易ではないが、大切なのは「人材マネジメントはオプション業務ではない、重要なマネージャーの仕事だ。」という認識を持つことである。

3.「第2法則:人材を引き付ける魅力の創出」

 優秀な社員は、「仕事の情熱を持ち、刺激的な業務に就き、多くのキャリアアップのチャンスを手に入れ、会社を引っ張るリーダー達に鼓舞されながら、その行き届いたマネジメントに安心し、使命を果たそうという意欲を掻き立てられる」ことを求めるものである。彼らは、熱心に働くと同時に、仕事に充足感を感じたいと思っているのだ。

 こうした優秀な人材に応えるために、企業は「EVP」を高めなければならない。

「EVP=Employee Value Proposition」
…会社が社員のために提供する価値

Ex.
・熱意を持って取り組める、刺激的な仕事
・一流の企業、一流の企業文化、一流のリーダーたち
・自身の業績に見合う報酬
・自身の成長と能力開発
・仕事と私生活のバランス
・優秀な同僚や職場の仲間

 企業は、EVPについて、顧客への訴求価値を考えるのと同等レベルで真剣に取り組まなければならない。
 以下に具体的な方法を添える。

・会社のEVPが現在どのくらい協力かを査定するために、優秀な人材の離職率を調べる
・会社がターゲットとする子女うのニーズを理解し、会社に惹きつけられる人材層を特定する
・会社のEVPの競合優位性を査定し、強みと弱みを把握する
・会社のEVPのうち、改善すべき点を決め、改善策を策定、実践する

 能力の高い人材を惹きつけ、つなぎとめるためには、社員の期待に応え、他社を上回るEVPを提供しなければならない。

4.「第3法則:リクルーティング戦略の再構築」

 企業はリクルーティングの方法を根本から再考し、再構築する必要がある。人材を集める方法は変化している。列をなす求職者の中から、優秀な人物を選べばいいというものではない。企業側から優秀な人材を捜しに出向かなければならない。
 具体的には、以下のような方法で実行する。

すべての職位に外からの新しい人材を投入する
<やるべきこと>
・組織の拒絶反応が強く出ないよう、新しい社員が会社の文化にあうかを見極める
・新しい社員が会社に溶け込みやすいプロセスを整える

常に優秀な人材を探す
<やるべきこと>
・継続的に人を雇う体制を作っておく
・雇いたいと思う人物に合う仕事を見極めて、そのポストが空くまでコンタクトを取り続ける

多様な人材獲得源をあたる
<やるべきこと>
・特定の経験や知識ではなく、その人に備わった資質に基づいて採用する
Cf.ディー・ホック
「雇用と昇進の決定は、第一にその人間の誠意、第二にモチベーション、第三は能力、第四は理解力、第五が知識で、最後に最も重要度が低いのが経験である。」

求職者でない人材にもアプローチする方法を探す
<やるべきこと>
・インターネットやデータベースを用いた採用やリファラル採用など、新たなチャネルを開拓する

望ましい人材を獲得するために報酬のルールを破る
<やるべきこと>
・「優秀な人材を得るためにはいくらかかるか」「その人物が自社のためにどのくらいの価値を生み出すことができるか」を常に考え、報酬の額を見積もる

候補者を選考すると同時に自社を売り込む
<やるべきこと>
・リクルーティングの最前線には優秀な社員を送り出す

人材のタイプに応じて戦略を策定する
<やるべきこと>
・マーケティング戦略と同じレベルで細かい戦略を立てる

 優秀な人材を雇用することは、今後ますます会社の業績向上にとって重要になる。相当数の優秀な人材を確保するためには、確固たるリクルーティング戦略が必要なのである。

5.「第4法則:マネジメント人材が育つ組織」

 人材育成競争での勝利は、常にリクルーティング競争に勝つことだけではない。企業に取り込んだ人材を成長させることも重要である。
 企業は人材の育成に日常的に力を入れなければならない。明確な意図をもって、社員に合った仕事を探し、効果的に人材の育成と業績の向上を目指す環境を整える。
 具体的には、以下のような取り組みを行う。

・ラーニング・カーブを険しくする(実力以上の仕事をさせる)
・多種多様な経験をさせる
・高度な業務を経験させる
・絶えず業務の範囲を広げていく
・社員の能力をより伸ばせるように仕事を構成する
・特に配慮のいる仕事を経験させる
・人材育成を促進するように人材配置を設計する
・継続的にコーチングとフィードバックを提供する
・メンター制度を作り、慎重にメンターを指名する

 人材の育成は、すべてのリーダーにとって特権でもあり、責任でもある。人材育成が成功するか否かは、当事者の理解力と意欲、また会社の明確な目的意識にかかっている。

6.「第5法則:人材マネジメントにおける選択と集中」

 優れた企業は社員の実力差を認め、報酬、チャンス、投資にも差をつける。業績の良い社員は昇進させ、高い報酬を与える。手堅い業績を上げている社員にはさらに高い目標を達成できるよう手助けする。そして、業績不振の社員は異動あるいは解雇する。
 例として以下のように社員をランク付けする。

・Aクラス:高い能力を持つ社員
→重点的に投資する

・Bクラス:手堅い仕事をする中位の社員
→能力開発のために育成に力を入れる

・Cクラス:業績が振るわない社員
→断固たる態度で臨む

 社員のランク付けに際しては、それぞれの過去の業績と潜在能力を評価し、さらに、その結果に応じた昇進、報酬、成長の機会を与えることが必要となる。
 マネジメント人材の評価においては、質の高い対話、明確で思い切った行動計画、徹底的なフォローアップである。社員の待遇に差をつけながら、各社員の存在を認めることで、能力主義が徹底した組織となる。

7.まとめ

 人材育成競争で勝つには、意識的かつ持続的な努力が必要である。人材育成競争に勝つ企業は、“人材”が会社の3大優先事項に入っている。また、リーダー自らが積極的な取り組みをしている。
 人材マネジメントが降下をあげると信じ、社員の希望や野心を理解し、それを伸ばし、励まし、彼らのために時間を注意を振り向け、社員全員の努力に、素直さと配慮を吹き込むことができれば、組織は大きく成長するはずである。