台北のアキバなんて安易な名称は似合わない街
三創生活園区、光華商場、八徳路電気街エリア
何でもネットで調べられる時代。人気観光地である台北の情報はいくらでも手に入った。「台北の秋葉原」という言葉を最初に聞いたときは、どうせ東京・アキバの劣化版だろうと思った。MRT忠孝新生駅周辺にある三創生活園区、光華商場、八徳路電気街エリアのことである。
台北では、古い建物を取り壊さずにそのまま使うケースが多い。有名どころでは、たばこ工場跡をリノベーションした松山文創園区、酒造工場をリノベーションした商業・文化施設、華山1914創意園区。このほか、カフェ、本屋、ホテルと既にあるものを有効活用した事例は尽きない。またそういった情報はネットで、無論日本語で簡単に手に入る。
自分ではそれなりの下調べをして、八徳路電気街、光華商場、三創生活園区エリアへ行ったつもりだった。
台北の街並みは、最新の商業施設から日本統治下に建てられた重厚な建物、一見廃墟にしか見えない何かまで、新旧が無秩序に入り乱れさまざまな表情を見せていると感じることが多く、このエリアも例外ではない。
その新旧がここまで至近距離という想像はしていなかった。仮に、日本のちょっとした田舎にイオンができたら、昔からやっていた商店街が衰退しシャッター商店街が誕生する、ということが起きるのではないだろうか。失礼ながら初見では、何で潰れないんだろう、と思ってしまった。
結論からいうと、この街はアキバの劣化版ではない。秋葉原にないものがここにはたくさんあった。今のアキバは最早進んでいる場所ではないとも思ってしまった。
買わせるより体験させる
2015年にオープンした「三創生活園区(さんそうせいかつえんく)」。アキバのヨドバシみたいなものだろうと思っていたら全く違った。地下2階から12階建てで、9階までが一般客向けフロアとなっている。日本のヨドバシは、例えば「ノートパソコン」のコーナーへ行けば、全てのメーカーのノートパソコンがある。「テレビ」のコーナーへ行けば、全てのメーカーのテレビがある。ビッグカメラ等も同じようなつくりだ。
「三創生活園区」は、各フロアある程度のテーマはあるが、メーカーごとに店舗があるのだ。「acer」にはacerの製品があり、「ASUS」にはASUSの製品がある。日本でいうなら伊勢丹のようなデパートのブランドごとになっている洋服売り場に近い。
日本ではお店に来たお客様に、その場で買ってもらおうというお店のつくりが当たり前だ。「三創生活園区」では、お店で買わせることより、お店で体験させることに優先順位が置かれていた。ドローンを店内で飛ばしているお客様がいたほか、ゲームをプレイしているお客様もいた。パッと見、ここはゲームセンターかと思ってしまったほどだ。
そして店舗で見てネットで買うお客様のための導線として、QRコードが商品付近にある。その場で買って帰る人だけがお客様ではないのだ。より多くの商品を陳列するのが正義の店舗は「三創生活園区」にはなかった。
さらに、「三創生活園区」は建物全体がお洒落で、アキバのヨドバシは足元にも及ばない。そもそもアキバは、お洒落で勝負できる何かがある場所ではないが。
これだけの最新を見せられた後、光華商場(こうかしょうじょう)へ向かった。
アキバができなかったこと
光華商場は、建物は6階建て。主に、1階~4階にデジタル製品を取り扱うテナントが並んでいる。光華商場も再開発で工事を経ているようだが、古さは否めない。パーツ屋はもちろん、スマホ、パソコン、周辺機器、ゲーム、そして修理屋、古本屋などがひしめき合っている。ひとつひとつの店舗がとても小さく、ギュッとつまった感じがする。確かにこのごちゃごちゃ感は、萌えがなかった頃のアキバの電気街に似ていると言えなくもない。
光華商場も今のアキバ以上なのではないか。アキバが残すことができなかったものが、おしゃんスポット三創生活園区の隣にもかかわらず残っているのである。アキバができなかったことがこの街では実現できているのだ。
かつてのアキバは世界有数ので電気街だった。「世界の電気街」の名に恥じない場所だった。サブカルチャーの街へと変貌をとげていく中で、わかりやすくいえばラジオ会館のような店舗が次々と撤退していった。現在は電気街というよりは、アニメ、漫画、ゲームの街である。
台北にも、アニメイトがあるが、場所は西門だ。ヲタクビルといわれる「萬年商業大樓」があるのも西門町。このほか西門近くの台北地下街もヲタ御用達ゾーンがある。台北では電気街と萌えが完全にすみ分けされている。
三創生活園区、光華商場の2つの建物だけではない、この周辺にもSONYストアやキャリアショップ、アクセサリーショップといった小さなお店がたくさん並んでいる。お店がある、お店だけが残っているというより、世界観含め「残っている」のだ。
まさかの飲食店街
このエリアでは、特においしいご飯は期待していなかった。
三創生活園区にも光華商場にもフードコートがある。にもかかわらず、近辺には古くからの小さな飲食店が並ぶ。お店の小ささは、光華商場のテナントに通じるものがある。そして活気がある。見た目は小さく古い。だが、活気がある。予想していなかった光景だった。三創生活園区のような商業施設と、共存できているということに驚いた。
もともと古本屋街だった頃の看板はそのまま。お店は通常営業である。
誰だよ台北のアキバとか言ったヤツは
「台北の秋葉原」と呼ばれる場所へ行ってきた感想は、アキバじゃなかった。アキバにない世界観がそこにはあった。
本当に本当にありがとうございます。