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自然派助産師・看護師が生まれる理由

先月あたりでしょうか、助産師を目指す学生向けの教科書に、産後の母親が乳房をキャベツで冷やす「キャベツ湿布」なるものが、医学的な根拠のない民間療法にも関わらず写真付きで掲載されており、助産師学会がメディアの取材に曖昧な回答で逃げたことを含めて、助産師への信用が危ぶまれた出来事がありました。

キャベツ湿布、ジャガイモ湿布といったエビデンス皆無の民間療法をはじめ、子宮を温める、潜在意識、脱ステロイド、反ワクチン、ホメオパシー、赤ちゃんはお母さんを選んで生まれてくるetc……標準医療に携わっている人間としてはとても信じられないような、荒唐無稽な発想の、いわゆる‟自然派”と呼ばれる助産師、正直見たことがないとは言えないし、助産師資格を持たない看護師の一部にもそういった発想は強く浸透しています※1。

医療関係者にも関わらずエビデンスのない民間療法を他者に勧めるなんて絶対にあってはならないことですが、私自身、看護学生時代の友人がそのような‟自然派”に傾倒すれば怒鳴りつけて絶縁し、出産後の友人に「助産師から白いもの(白砂糖や牛乳)は食べるなと言われた」と聞けばその助産師に電話をかけて説教し、「子宮頸がんワクチンは厚労省が禁止したのよ危険なのよ」と看護師の先輩に言われれば頼むから適当なことほざかないでくださいと頭を下げるくらいには身近な話でもあります。

知人や手の届く範囲の同業者相手に対面での批判を続けて数年、よくよく分かったことは、エビデンス皆無であることが証明されていることまで「助産師として」あるいは「看護師として」、つまり医療資格を持ったプロとして他者に押し付けている人々を正面から批判したところで、あの方達は同じ考え方のコミュニティに閉じこもって「社会の毒から私と子どもを守らねば」と益々強固にエビデンスを拒絶するということ。それはもう完全にカルト宗教と同じ構造でしょう。

自然派。自然派とはなにか。なぜ彼等彼女等はそれを患者に勧めるのか。そう思って今回、インターネット上でヒットした9名の自然派助産師・看護師のブログサイト※2を比較、検討し私なりの考察を加えてみました。

自然派助産師、看護師の求める「自己選択」

自然派助産師、看護師のブログの中での共通した主張は「人間には自然治癒力が備わっているから、余計な医療を受けなくとも人は生きていられる」です(9名中9名が同じ主張、「西洋医療も時には必要だけれど」と注釈をつけていたのは9名中3名)。その中での主張として「だからステロイドやワクチンといった不自然なものは危険(9名中7名)」「自然治癒力を高めるためにオーガニックな食生活を(9名中9名)」と続きます。さらに進むと「薬の代わりにホメオパシー(9名中4名)」という完全に反医療主義と呼べる思想に進んでいきますが、半数以上が「懇意にしている助産院や整体院について記載している(9名中5名)」ことから、なんとなく自然なものが良いと考える段階から進行していく原因は、同じような思想のさらに過激なコミュニティへの出入りがきっかけとなることが見て取れます。

興味深いのは、「病院主体(の出産)ではなく自分で選んで決める」「自分を信じる」「真の自分を解放する」といった、自己実現に関する言及が非常に多いこと(9名中8名)です。また自然派になった理由に関しては、「自分自身が病院で出産した時、流れ作業のようで心が休まらずに出産経験に不満が残った(3名)」「看護学生の時に実習で見た病院でのお産が心温まるものではなかった(1名)」「病院の産婦人科に勤務していたが、病院が忙しすぎてどのスタッフも妊婦のことを考えていなかったし自分も考えられなかった。寄り添えずに不満が残った(1名)」と、標準医療の中での妊娠出産に対して何かしらのネガティブな感情を抱いたことが転機として記述されているケースが半数以上を占めていました。自身の経験に基づく、特に出産に関する医療不信が彼女達を自然派に走らせる、というのは、個人的には見過ごせないポイントだと感じます。

助産師・看護師のパーソナリティと職業特性

「自分を信じる」「真の自分を解放する」といった自己実現欲求に関して、そもそも、助産師や看護師をはじめとする対人援助職に就く人間には、自己肯定感の低さや共依存傾向の強さといった、彼等彼女等自身が何らかの援助を必要としている場合が多いことが指摘されています※3。看護師になった時点での私自身もそうでしたが、自信がなく、精神的に不安定で、他者から援助や支援を受けるべき存在がそれに対して適切なケアを受けることなく、むしろ大量のレポートを課されて毎日睡眠3時間で日常生活上の判断力すら危うくなる看護実習期間を経て「君は他者を救う存在になった」と医療現場に放り出されることはどう考えても異常で、一種の洗脳教育とも言えるでしょう。

また、看護職者は偏差値的な意味で大変頭の良くない集団です。というのは、現在助産師、看護師になるには主に3年制の専門学校か4年制の大学に通う必要がありますが、大学の偏差値、例えば私立看護学部の最高偏差値の慶應義塾大学看護医療学部ですら偏差値60、慶應義塾大学の全学部の中でダントツ最下位です※4。偏差値としては40~47.5程度の大学が最も多く、さらに日本では看護学部を持つ大学よりも圧倒的に専門学校が多いのも現実です。

偏差値、特に大学・専門学校入学当初の偏差値で賢さの全てが計れるとはさらさら思いませんし、経済的な事情を考慮して進学先を決める場合があることも重々承知していますが、偏差値が低い人間であればあるほど複雑なエビデンスを理解する能力が低いのは当然のこと。自然派助産師・看護師に多く見られた、実際には医学的根拠とは何の関係もない個人のネガティブな経験が「私の不満は病院が悪い、医療は悪だ、医学は悪だ」と短絡的に結びついていたことを踏まえると、医療現場に関わる上で必要なエビデンスの理解力や思考力が身についていない人間が助産師や看護師になれてしまうのが現状だと、絶望的な気持ちになります。

さらに、上述したように、精神的に未熟且つ短絡的思考な傾向の強い我々看護職者は、医療現場の中でも不安定な位置にいます※5。助産師であれば、異常のない妊婦の出産の介助はできますが、薬剤の投与や帝王切開が必要な場合は医師に任せるしかありません。看護師も独断での医療行為はできず、患者の異常を発見したら医師への報告と指示受けが義務です。

ベッドサイドで毎日患者から怒鳴られ殴られ医者から嫌味を言われ、散々な仕打ちを受けているにも関わらず、患者の生命が直接的に左右される、いざという時には医師がいないと何もできない。挙句最後に感謝されるのは大抵医師だけという理不尽の中で、医師に対する対抗心が生まれる気持ちは看護師として理解できます。医師に訊くまでもないような些細な事柄まで権限の問題から確認しては「そんなことも分かんないの?」と言われる度、私だって悔しくて泣きたくなります。「本当に患者を守っているのは私達なのに」という不満がいつの間にか「医者は本当は何にも分かっていない!」という思想になり、そのタイミングで運悪く自然派なるものと出会ってしまうと、短絡的な正義感の暴走により「医者がやっている現代の医療は患者のことなんて考えてない!」という認識に至り、医学的根拠そのものを否定し始めるというのが、私の中で予測される自然派助産師・看護師の心理です。そしてその心の動きが、同じ看護師として、全く理解のできない別次元のものとは思えないのです。

生き辛さが自然派助産師・看護師を生む

自己肯定感が育まれないような養育環境を背負い、理解力も高くない、現場では常に理不尽に晒される助産師、看護師が自然派に傾倒するという一連の流れは看護学生の時から周りを見ていてどことなく感じていたことで、助産師・看護師がどれだけ生き辛いかを改めて痛感します。

近藤誠や内海聡といった、反医療的な主張をしている医師達が本気で自身の主張を信じているのか、それとも金銭のために主張しているのかは知りませんが、少なくとも‟自然派”助産師や看護師は本気で信じている。だからこそ、自然派と呼ばれるあの方達を真っ当な道に戻すには、おそらく正面からの批判は全くの無意味で、唯一思いつく解決策は本人と対面して、自然派に至ったきっかけや思想を最後まで聞いた後に「そうかそれは生き辛かったね」と返答するところから始まる対話だと考えています。


とはいえ私自身の個人的な意見は、自然派の助産師・看護師の資格は剥奪されるべきだと思います。ホメオパシーで乳幼児が死亡している、ワクチン不要だとほざいて子どもを感染症に晒す、食事で癌が治ると吹聴する、あの人達のやっていることを挙げればきりがないけれども、悲しいことに、助産師や看護師といった有資格者が言えば、一般人はまず信じるのです。助産師や看護師の自然派というものは「隣に住んでいるお姉さんがスピ系だった」とは完全に次元の違う話で、本人達の生き辛さが根本にあろうがなかろうが、あの人達が行っていることは明確な殺人行為なのです。他人の命を自己実現の道具にするな。人様をナメるのも大概にしろ。プロならプロとして行動しろ。

私のこの検討自体、他者から見れば実は思考力の低い頭の悪い人間の戯言なのかもしれません。本当はもっと単純に、自然派の人達はそれをビジネスとしてやっているのかもしれません。それでも被害者のいる現実とその構造について思考することを無駄だとは思いたくない。多くの人間が懸命に育て上げた先進医療を軽率に否定する人々によって、誰かの命が奪われる日がなくなることを、心から祈ります。



※1 助産師は看護師のカリキュラムの上にさらに特定の科目を履修することで国家試験受験可能となるので大抵助産師は看護師の資格を兼ねている(ごく一部例外あり)

※2:検討の対象は、グーグル検索窓にて「助産師 自然派 ブログ」「看護師 自然派 ブログ」で検索、自然派への批判記事やまとめサイトなどを除外した上で、検索結果上位より、記事が5本以上存在しそのうち1つ以上が2018年に更新されている助産師6名、看護師3名のブログサイトとする。

※3:大澤優子・田中瞳・松下年子・丸山昭子・篠原百合子・渡邊裕見子(2015).看護系大学生における共依存傾向と親の養育態度および自己価値観の関連性についての予備的調査.第45回日本看護学会論文集 精神看護,286-289.

山口忍・荒賀直子(2000).看護女子学生と看護以外を専攻する女子学生の共依存傾向について.順天堂医療短期大学紀要,11(2),33-39.

安田美弥子(2002).あなたも危ない!?共依存症.看護技術,47(2),198-205.

米山奈々子(2005).自分自身の生き方も見つめ直す DVと共依存の問題と出会って 私とアディクション看護.精神科看護,32(10),70-74.

※4:河合塾kei-Net 入試難易予想ランキング表 https://www.keinet.ne.jp/rank/

※5:糸嶺一郎・ 鈴木英子・ 叶谷由佳・佐藤千史(2006).大学病院に勤務した新卒看護職者のリアリティ・ショックに関与する要因.日本看護研究学会雑誌,29(4),63-70.

三木明子(2002). 産業・経済変革期の職場ストレス対策の進め方 病院ストレス対策. 産業衛生学雑誌,44(6),219-223.

小野田舞・内田宏美・ 津本優子(2012). 新卒看護師の職場適応とその影響因子に関する縦断的研究.日本看護管理学会誌,16(1),13-23.

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