働きまくっていたら20代で大動脈瘤、心臓弁膜症になった話の記録-3


さて機械弁について。

私の場合は心臓の弁が2つダメになっていたわけですが、ダメになっていた、というのは弁がびろんびろんに伸びてヘナヘナになっていたようです。
ちゃんと閉まってくれないので、必死に心臓がポンプしてもそれぞれの弁で50%ずつくらい逆流している(素人計算ですが、そうするとつまり全体で見れば75%が逆流している?)ようでした。
そりゃ走れないですよね。

そのほかに、大動脈弁は弁そのものの形も特殊で二尖弁という形だったようです。
普通は三尖弁と言って、3つの弁が合わさって一つの円形を作るんですが、私は二尖弁なのでそれが2個。
これも異常をきたしやすい形ということでした。

さて、そんな感じでダメになっていた私の弁ですが、では治療は何があるのか?
これが1番難問で手術前日まで何にするか悩みました。

(ここから先は素人には特に難しいので、私の理解の範囲です。正確な治療法の理解、検討が必要な場合は医師とご相談ください。)

弁の治療は、もう弁がダメでこのままでは使い物にならんという時には、細かい種類はたくさんありますが大きく分けると2つ方法があるようです。
人工弁に取り替える、あるいは今ある弁をいじって機能するように整えるの2つです。

人工弁は治療の歴史が長いですし、取り替えてしまえばほぼ確実に一定期間機能してくれます。
ただ、その代わりに薬を飲む必要があったり、特に機械弁では弁の開閉音が聞こえるなど不都合もあります。

なお、人工弁といったときにさらに2種類あって生体弁(牛豚の心臓弁)と機械弁(カーボンでできた弁)があります。
生体弁は、生き物の弁なので少し体に優しく、手術後数ヶ月薬を飲めばそれ以後は薬フリーで飲む必要がありません。
ただし、生き物の弁なので寿命があり10年程度でダメになるようです。とはいえ1度?程度ならもう一回カテーテルを使った負担が軽めの手術で弁を更新ができるようです。
とはいえ、それも限度があるので生体弁は原則50歳くらいより上の方にのみ検討されるようです。

一方で機械弁はカーボンですから、基本つけたら壊れないそうです。
ただし、完全な異物ですからデメリットがあります。
まず大きいのが、血液サラサラ薬を一生飲む必要があります。
理由は、血液は細胞以外の異物に触れると固まるらしく機械弁にあたると固まって血栓になるようです。
それを防ぐために、血液の固まる能力を弱める薬を飲みます。これが一生必要です。
しかもこれは濃度にも要求があり、効きすぎても弱すぎてもダメです。
なので長くても3ヶ月に一度病院に行って濃度を測って薬の量を相談して薬を新しくもらう必要があります。
そして当然血が固まりにくいので出血リスクを抑える必要があります。
バイクなど大出血リスクがあるものは避ける必要があります。
また、特に怖いのが脳内出血や消化管の出血などの本人が気づかないタイプのもののようです。
特に高齢では脳出血が怖いとのことでした。

上記に加え、この薬は特定の食べ物を食べると効き目が弱まるので、納豆・青汁・山盛り野菜などは禁止になります。特に納豆。
これだけでも非常にめんどくさいですね。

機械弁は加えてもう一つデメリットがあります。
カーボンなので、開閉する時にカチカチ言います。
私は実は手術前はこれが1番気になっていました。24時間365日死ぬまで胸からカチカチ言ってたら発狂するだろと思って、ググったところ不眠症だとか寝れないとかそういう声が実際あったのでかなり悩みました。

が、機械弁で手術してみた今となっては私は大して気にならないですね。
確かに本当にカチカチ聞こえます。イメージ的には駄菓子で口の中でぱちぱち、シュワシュワするやつってちょっと後頭部に響くじゃないですか?あんな感じです。
ですが、人と話したりしてれば全然忘れますし、寝る時とか鼓動が激しいと鳴ってるなと思いますが、私はズボラなのもありほとんど気になったこともなくスーピー寝ています。
割とどこでも寝ちゃうんだよねというタイプの人はほぼ心配いらないと思います。
まれーにめちゃくちゃ静かな空間ではカチカチ音が人にも聞こえるようですが、普通人の胸からカチカチ言うとは思わないので、なんか鳴ってるなぁとは思っても基本バレることもありません。もしバレたくなければ

あと、ご飯制限と毎日薬飲むことですが、これも正味大して気にならないです。
納豆大好き星人ならきついかもですが、納豆以外は基本自由に食えます。
山盛り野菜はダメですが、普通の量は食べられます。
どのみち心臓をやったら減塩生活なので、それに比べたらどうでもいいですね。
毎日薬飲むのも、意外となれますね。
はみがきみたいなかんじですね。旅行とかの時に絶対持ってかないとダメですが。

さて、それが人工弁です。

弁形成術(今ある弁をいじって機能するように治す)は、比較的新しい治療法ですが、成績が比較的良いということでした。
患者の視点から見ると、自分の体を切り取って異物を入れないで済むわけですから嬉しいですよね。

ただその代わり難易度が高いようです。私のいた病院は日本で1番レベルに症例の多い病院だったので私はその心配はありませんでしたが、選択される場合は成功率に結構差があるようなので病院を吟味されたほうがいいかもしれません。

これは、うまくいけば薬なし、音無し、その他めんどくさい制限なしなので最高ですが、1番辛いのがやってみたけどすぐダメになっちゃって再手術のパターンですね。
短期間での再手術は死亡率が上がりますし、そもそも心臓手術って、めちゃくちゃめちゃくちゃ回復に時間かかります。死ぬほどしんどいです。
部活で怪我して手術してリハビリみたいなのとは訳が違います。

それを2セットやるとなるとシンプルにめちゃくちゃしんどいです。
しかも時間もめっちゃかかります。
加えて死亡率も高くなると理解しています。

これが私の思う形成術のデメリットです。
ただ、私はいろんな理由で血管が弱かったので再手術リスクを重く見ましたが、普通は再手術はほとんどないようで、形成術を選択してダメになるってのは全然多くないようです。
特に私のいた病院は最先端だったので、特に成績も良かったようです。
これが選べるなら最高ですので、術式検討の際には医師の方とよくご相談ください。

これが、弁の治療法二種類ですね。

私は生体弁は年齢的に選択できなかったので、機械弁と弁形成で迷っていました。

弁形成なら、薬なし・通院なし・音無し、その代わり再手術リスクあり

機械弁なら、高確率で再手術なし、その代わり薬あり・通院あり・音あり

の2択ですね。

置きに行くなら機械弁ですが、
弁形成なら、(私の場合体質的に血管が脆いのでいつかは再手術ですが)どうせ再手術になるとしても仮に10年弁形成で持ったらその間薬なしで伸び伸びやれるわけですね。
そのメリットと再手術もう一回やることの天秤でした。

手術前日の夕方もお休みなのに先生が来てくれたりして、何回もお話聞きましたが、
私の血管が脆いという体質、二尖弁であること、そもそも大動脈瘤と弁2つの閉鎖不全があって限られた心臓停止時間でやることがいっぱいあること、を考えて弁形成しても早晩ダメになる可能性も高いし限られた時間でやる手術なのにその難度もあげて、一方で得られるメリットの期待値が低いんじゃないかと言う結論に至りました。

弁形成してもいつかはほぼ確実に再手術で、しかもそれが早期になりそうなら、しんどい手術をもう一回やるだけになります。
しかも、心臓を止めて手術をするので作業時間は限られています。
その時間で2箇所も形成をして(しかもその片方は特殊な二尖弁)、大動脈の一部を人工血管に変えてとやるのは時間がタイトです。

一方で、心臓を開いてからでないと弁の状態のニュアンスはわからないと言うことだったので、
最終的な結論としては「心臓を開いて、弁の状態が最高だ!これなら弁形成もサクサクできる!長持ちしそう!と言う状態なら弁形成。それ以外の少しでも疑義がある状態なら、機械弁」
と言う結論になりました。

同じ伸びてる、でもぺらっぺらになっているのか、弁自体がしっかりしていて形成すればシャキッとするのかまでは開かないとわからないようでした。

それで手術に臨みましたが、結果的には開いてみたら弁がビロンビロンで全然ダメだったと言うことで機械弁になりました。

私の胸を開いた後に先生方で協議を行なって決定されたと後から聞きました(笑)
自分が胸を掻っ捌かれてるのを取り囲んで議論が行われていたというのは、自分では一生見ることはないですが、なんだか不思議な感じがしますね。
とにかく先生方には本当に感謝しています。
病院名は出さないですが、とにかく最高でした。
クソ忙しいのに、科のヘッドの先生も執刀医の方もかなり相談に乗ってくれました。
症例も我々が日本で一番レベルでやっています、ということで(素人ながらネットで自分でもググりましたが本当に日本トップクラスのようでした)、安心感が半端なかったですね。

(私が関わっていたM&Aアドバイザリーも案件経験が重要と言われますが、お客さん側の気持ちがここで腹落ちしました。色んな症例見てる方だと、もうついていこう、と思えますね。)

余談ですが、心臓外科というのは人智を遥かに超えた異常な労働スタイルでした。
私のいた業界は激務といえば、で官僚なんかと一緒に名前が出てくるような業界でしたが、心臓外科というのはそれを全然上回っているように思われます。

私の手術前後で見ても、
前日19時に、私と手術方式を相談(そもそも本当はこの日は先生は休日です)
その後夜中2時から朝8時まで緊急手術
朝9時に私と手術前最後の面会(全然眠くもなく、元気です。とのことでした)
朝10時から20時まで私の手術

おそらくこれが忙しい日ではなくて、通常運転ですからね。しかも結構シニアな偉い先生ですよ。
異常です。やばすぎますよ。
本当に寿命を削って治療にあたっていらっしゃると思います。
会社員なんて仮に激務でもどんだけミスったって、人が死ぬような騒ぎになることはほとんどありません。
でも先生方はまさに人が死にますからね。その上で単純な労働時間数でも多くのいわゆる激務系サラリーマンを上回っていると思います。
本当に驚きました。

退院時にできるだけお礼をしたいと思って手紙と粗品はお渡ししましたが、いつか寄付もしたいと思っています。
本当にありがとうございました。
心臓外科の先生方には頭が上がりません。

さてここまでが手術当日までの話です。

次回は手術後の話を書きたいと思います。

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