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第1章 浅草 朝から夜中まで(3)

開館 十時

 下廻り、ペーペー、道具方、女給、表方、事務員、映写技師、中売り。──弁当箱を抱えて小屋入りだ。
 テケツ、モギリ、手曳き。陣容を整え、手ぐすねひいた。
 ベル…………開館。
 待ち兼ねた若いファンどもが殺到する。逸早く切符を買った少年は、優越を振って、颯爽と入場する。
 華やかな入場の式が終わる。座席の、椅子の波に浮いた、バラバラの頭だ。その頭の幾つかが、欠伸を天井に向けてほうり上げる頃になると、カタ、カタ、カタ。映写機がセルロイドの紐をたぐり出すのである。

底本

浅草底流記 - 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1916565/20
コマ番号 20~20