第五章 喧嘩

「それはちがうよ。だいははあいと、ぼくあいとはちがうよ。ぼくひとからじよくされることは、ぬよりもきらいなんだからな。」

 わたしことれると、いしざきはこうって、わたしのそれもこれも、みなあしにでもするような調ちようでもってはんたいしてきた。

「それやそうさ。ちがうとえばちがうさ。だがしかし、きみぜんぜん憎にくくてそうしたわけじゃないんだろうじゃないか。それをきみは……」とわたしっていると、いしざきは、くもわたしうことをかずに、

「いやぼくは、憎にくくて憎にくくてたまらなくなったから、ばしてやったんだ。ほかゆうがあるもんかい。」とって、かれやみわたしっかかってきた。

「だがしかし。」と、わたしへくると、すこきこんでくちると、

「だがしかしも、しかしかしてもないじゃないか。ぼくはそうなんだ。しやくさわってたまらないから、ばしてやったんだ。しそうしたってかまわないものなら、ぼくかしちゃかなかったかもれない。」とって、いしざきわたしことたたきおってしまった。たたきおられたわたしは、ますますかいになった。せつには、わたしはまたべてをわすれて、たまらなくいきどおりさえかんじた。それがいくぶんくずおれていってからも、わたしはもうくちにはなれなかったので、それからしばらだまっていた。

 するといしざきいしざきで、かれわたしとはけいえいのもののように、だまってしまった。そして、これはわたしこころなしかれないが、かれときにもしようしやらしいひようじようをみせて、さもうまそうにしきしまっていた。それが、──かいな、はなづまりそうなちんもくが、ちようわたしはんぶんくらいになっているバットをいつくすとどうやぶれてしまった。わたしあいむらがりおこるかいかんせいふくして、すこしでもいしざきよりはじんかくしやらしくふるいたいとぼうむねきあがってきた。で、わたしは、

「まあ、そうえばそうだ……」とって、ちょっとってから「だが、るだけけんすんだな。つまらないじゃないか。けんなんぞしたって。それよか、おもいきりおもしろく、たのしくやるんだなあ。」とったものだ。うまでもなくそれはあいいたわるのような調ちようったのだ。

「そうさ。るだけそうするんだな。」

 いしざきかるくそれにおうじたが、ことなかには、じんしんじつらしいものははたらいていなかった。それがまたわたしかいにしたが、しかしわたしは、かれひようめんでは、くまできようしやらしくっていても、ちゆうしんあいかつと、そうとうせきばくさにえられないものがあるのだろうとおもうと、ひとあじあいれんさをおぼえてきた。

こんは、きみかないのかい。」

 わたしときすこにつかぬことだとおもいながらも、こうっていてみた。

へ。」

わかってらあなあ。おりますせんせいのところへさ。」

わけがないじゃないか。ころそこなったあまのところへ、ひまなんぞがあるもんかい。ぼくはそんなひまがあれば、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕(※センズリこいて)、らあな。」

「じゃ、おりますせんせいのところがいやなら、へいって、だい二のたねきをしたっていじゃないか。でなきゃ、さけみにいくとかさ。」

「そうだ。さけならいなあ。いっぱいむかざけけたいや。」

「そして、ったところで、「なつぜんきちあいびき」とくりゃ、もんがなかろうじゃないか。」

「ふうんだ。やかしちゃいけないぜ。だれがああちくしようなんぞとうもんか。ただぼくさけみてえや。」

「じゃ、みにったらどうだい。」

「ところで、あい憎くとこんは、しろがないので、よわってるのよ。」

 いしざきは、煙草たばこうすよごれているまえをみせたとおもうと、

「それともきみは、しんせつがあるなら、ぼくにそれをすかい。」とって、ひとあごしゃくって・・・・・いて、またまえしてみせた。

じようだんっちゃいけない。てんは、ぼくほういろおとこだぜ。」

「どうしてよ。なにいろおとこなんだい。」

「だって、そううじゃないか。『いろおとこかねちからはなかりけり』って。」

「なんだい。ふるしやだな。」

 いしざきかたないようにしようした。

 わたしも、ついそれにひきっこまれてしようした。そして、いよいよわたししんが、だとかんさつしていたそれをたしかめたとおもうと、一どきかみのこらずひきかれたように、はなはだしくさびしくなってきた。また、わたしあしいたみは、それをかくして、一だんはげしくなってきたようにおぼえた。

 ところで、じんそううことをらないいしざきは、それから二三ともだちうわさをしだした。またかれは、えいやくんだのだとかう、らん西しようせつ、──しよめいはなんとかったが、それのこうがいはなしたりした。──しようせつしゆじんこうが、さんすうまんえんを、さけおんなとにしようしてしまって、さいじきになってててしまったとうそれをだんじて、ぶんおとこのようにふるいたいものだといもした。だがしかし、わたしはそれにも、なんらのきようてなかった。ただはなしが、わたしくわうるものがあったとすれば、それはいやがうえにも、わたしじんせいつうさくばくさをおもわしめたにぎなかった。──わたしには、くらしようしたくとも、しようするかねがない。しようするかねがなければ、くらさけおんなしたしみたくとも、とうていのぞみはたっせらるべくもない。そうおもうとわたしものいっしようは、しつしたこともないものを、ちゆうになってたんきゆうしつつおわもののようにかんじられてきた。わたしには、うそにもそうぼうつことのいしざきのことが、いまさらうらやましくてたまらなくなった。だがわたしは、いしざきから、

いじゃないかきみどうで・・・使つかえばなくなるかねなんぞをもうけるために、あせみずながすより、るならぼくは、もうちゃんとちよちくされてるかねを、使つかいはたすほうあせみずながしておわりたいよ。」と、こうわれたときには、

「そりゃぼくどうかんだよ。るものなら、ぼくもそうしたいよ。」とっているうちに、わたしむねはひとりでに、めたくなってきた。どうふたつからは、いまにもなみだあふれおちそうになってきたので、わたしわざかおをそけた。ときつくえうえおきけいたんしんが、もう十一ちかくへ、いよっているのが、ちらりとわたしについたので、

「じゃ、ぼくえるよ。」とって、いさしのバットを、ばちなかきさしたが、ときまた、たにぞこへでもちこんだようなしゆうせいじやくさが、一どきせまってくるのをかんじた。とどうに、そとあめになっているようなけはい・・・ちょっかくした。

いじゃないか。はなしていきたまえな。」

 いしざきがこううのをみみにしながら、

「もう十一だよ。それに、あめじゃないか。」とって、わたしって、しようけてみると、もうあめとおったあとらしかったが、のきさきうにちてくるしずくが、うちでんけて、きらりとひかるのがわたしへついてきた。

ってきた。」

 いしざきわたしことあとから、なかどくのようにこうって、「じゃ、かさっていきたまえな。それに、わるいんだけれど、あしもあるよ。」とけくわえてくれた。

「いや、あまはもうあがったらしいよ。まだそうたいして、みちれてやしまいから、あしらないよ。──またあしいたみくさってよわってるんだ。だから、けっきよくぼくには、ほうかっなんだ。」とってから、またことをついで、「じゃまないが、かさいっぽんしてくんないか。もうたいていだいじようだろうけれど、ようってくから……」とうのを、ったくるようにして、

「ああいとも、ってきたまえな。」といながらかれちあがって、「そいつあいけねえな。だいにしたまえ。わるくしちゃっちゃことだぜ。」といをったりして、わたしあとからいてきた。

「ありがとう。なあに、だいじようだよ、わるくなっちゃったら、こんくびもろともに、ちきっちまうんだ。──それやそうと、きみなんだぜ、そんなこころにもないけんは、もうすんだなあ。そんなひまがあったら、それこそきみいぐさじゃないが、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕(※センズリでもこいて・・・)、おとなしくるんだなあ。」とうと、

「よし、よし。せいぜいそうしようよ。どうで・・・つまらないことだからなあ。」と、いしざきなんだかこうすこあいまいなものいをして、したへおりてきた。それから、じよちゆういつけて、じやがさしてくれた。

きみもちとやってこないか。」

 わかれぎわにわたしがこううと、

「ああ、くよ。だいにしたまえ。」とって、いしざきわたしおくりだしてくれた。