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続おれとこなちゃん(2)

こなちゃんの学力

 おれは柊つかさである。
 おれは、こなちゃんに親しみを感じる。人柄が好きだったり、おしゃべりすると楽しかったり──というのもあるけど、それより何よりも学力の程度がおれと同じくらいだと思えて、安心してつきあえるからだ。

 こなちゃんはゲームや漫画やアニメについてはとても物知りだ。頭の回転も早い。確かに、こなちゃんは「地頭」は良いと思う。でも、学校の勉強に関していえば、それほどでもない。
 こなちゃんは勉強が好きじゃない。そういうところもおれと気が合う。おれも勉強が好きじゃないし苦手だから。

 こなちゃんは勉強するのが嫌いなくせに、試験でたまに八十点以上の成果をあげる。
 なぜなら、こなちゃんは一夜漬けが得意だから。
 こなちゃんは、いつも授業中はぼーっとしているし、おうちに帰っても遊んでばかりいるくせに、たった一晩のあいだ試験範囲を丸暗記しただけで、秀才のお姉ちゃんと同じくらいの点数をとってしまうことがある。
 ただし全教科ではない。一夜漬けの暗記が通用する教科だけで、しかも毎回じゃない。こなちゃんのやる気は気まぐれだ。

 でも、あんなものは本当の学力じゃないと思う。
 おれだって一夜漬けで悪くない点数をとったことがあるけれど、一夜漬けで覚えたものはすぐに忘れてしまうことをよく知っている。
 だから、こなちゃんの八十点以上の試験結果は、見せかけの学力だ。本当の学力じゃない。だから、こなちゃんとおれの学力は同じくらいだと思う。
 つまり、こなちゃんは勉強ができるわけじゃない。要領が良いだけなのだ。勉強が苦手なのも学力の程度も、おれとよく似ている。だから、おれはこなちゃんに親しみを感じるし、これからも仲良くしていけると思う。

 柊つかさには双子の姉がいる。名前は柊かがみ。
 おれは柊つかさである。だから、柊かがみはおれのお姉ちゃんである。
 こなちゃんは要領が良い。ふだんの宿題は、おれのお姉ちゃんの教科別ノートを写してそれを提出することが多い。先生にバレたことはないらしい。
 おれとこなちゃんは同じ2年E組で、おれとお姉ちゃんは双子だから同じ2年生で、おれのクラスメイトであるこなちゃんとお姉ちゃんも学年が同じだから宿題の範囲は同じで、だけどお姉ちゃんは2年D組だから、担当教科の先生は同じでもクラスが違うことによって、こなちゃんは同学年で優等生のお姉ちゃんの宿題ノートを写してもバレにくいというズルができる。

 こなちゃんって世渡りがうまい。一夜漬けで稼いだ高得点の教科のおかげで、同じくらいの学力であるおれと比べて、試験全体の平均点はこなちゃんのほうが上だ。お姉ちゃんのノートをいつも借りて丸ごと写しているから、宿題の見せかけの正解率や見せかけの提出率が良い。だから、きっと内申点も悪くないのだろう。

 こなちゃんって要領がいいな、って思う。いつもはゲームや漫画やアニメのことしか考えてないような気楽な子に見えるけど……。こなちゃんって、実は「ちゃっかり」しているのだ。できるだけ楽をする方法をよく心得ている。こなちゃんは生きるのがうまいな、うらやましいな……って思う。

 おれは柊つかさである。
 おれなんて……宿題提出の日の前の晩ギリギリまでやっても終わらないのに。
 おれが眠いのをガマンして自分のちからで苦労しながら宿題を終わらせようとしているとき、こなちゃんはゲームをやったり漫画を読んだりアニメを観たりして遊んで楽しそうに過ごしている。

 おれのお姉ちゃんは、宿題ノートを滅多に見せてくれない。おれはお姉ちゃんの妹なのに。そのくせ、こなちゃんに頼まれたら、気が進まないそぶりを見せるものの、結局はノートを丸写しさせてあげることが多い。
 もちろん、お姉ちゃんだってこなちゃんの頼みを断るときがある。でも、こなちゃんが十回頼んだとしたら五回以上は宿題ノートを見せてあげるのに対して、実の妹であるおれのときは十回お願いしても一回見せてくれるかどうかだ。

 お姉ちゃんのいじわる。
 他人のこなちゃんには甘くて、ひとつ屋根の下で暮している家族であるはずのおれには厳しい。
 お姉ちゃんいわく「宿題を丸写しさせないのは、あんたの将来のためにならないから」だって。
 あれ……? じゃあ、こなちゃんの将来はどうでもいいって…ことかな?