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続おれとこなちゃん(3)

こなちゃんの恥じらい

 おれは柊つかさである。
 放課後の帰り道。おれとお姉ちゃんとこなちゃんは電車に乗り込んだ。車両内の空気が蒸れていた。おれたちは部活に属していないので、帰宅ラッシュの時間には早すぎる。ラッシュ時のような満員でもないのに冷房の効きがよくなかった。学校では夏服に変わったばかりで、季節の変わり目なので、まだ温度調整がこなれていないのかもしれない。
 車両内が蒸していると、制服のなかも蒸れてくる。やがて全身が汗ばんできた。
 お姉ちゃんはハンカチで浮いた汗を拭う。
 おれも汗ばんでいたから、セーラー服の襟下を指でつまんで控えめにパタパタとしてこもった熱気を逃がそうとする。
 こなちゃんは、手提げカバンからノートを取り出して、それをパタパタとあおいで凉をとりはじめた。
 こなちゃん。はじめは汗のせいでまとわりつく前髪をあおいでいたけれど、すぐさまセーラー服の裾をまくりあげて腹部にむかってノートを扇ぎはじめた。
 こなちゃん。それに飽き足らず、こなちゃんはスカートの裾をわずかにまくりあげて、こもった熱気をノートをつかって取り除くことを試みはじめた。ノートで扇ぐたびに、そよ風がおこって、こなちゃんが穿いている制服スカートのすそがヒラヒラと踊る。こなちゃんの膝頭から上のほう、やわらかそうな腿が露わにになる。
 おれとお姉ちゃんとこなちゃんは、窓と座席のほうに向かって立っていたから、こなちゃんの目のまえに座っているスーツ姿の男の人が顏を真っ赤にして、女子高生が見え隠れさせる太ももから目をそむけていた。
 当のこなちゃんは、ノートをつかって扇ぐことに夢中で、男の人が戸惑っていることに気が付いていないようだった。
 こなちゃんには恥じらいの気持ちが欠けている。
 ふつうは、他人に向かってスカートのなかを晒そうとは思わない。スカートがひた隠しているパンツを見られるのが恥ずかしいからだ。
 ここでいうパンツとは下着のことだ。ズボンやスカートの下に着るための衣服を指す。
 下着としてのパンツは陰部を隠すためにある。
 陰部とは、その字があらわすとおり陰茎や陰嚢や陰核や陰唇などの陰がつく部分である。法的には猥褻物だ。おおっぴらに晒すことが禁じられているデリケートな部分である。
 陰茎や陰嚢や陰核や陰唇はパンツの布一枚の向こうがわにある。
 パンツを見られるのが恥ずかしいのは、布一枚しか隔てていない、つまり陰茎や陰嚢や陰核や陰唇を見られるのが恥ずかしいとされているからだ。
 すなわち、パンツをさらすことは陰唇をさらすことに等しい。
 おれは柊つかさだが、男性であるおれでさえ、たとえば乗客がいる電車のなかという公衆の面前で、ズボンをずりおろしてパンツを衆目にさらすおこないには躊躇いを感じる。おなじ衆目でも、公衆浴場であったならば周りの者たちもおなじ裸であるからやむをえないが、そうではない公共交通機関の車両内で陰茎や陰嚢をほかの乗客に見られるのは恥ずかしい。
 こなちゃんは、蒸し暑さをまぎらわすためならば、衆目に陰唇をさらしても恥ずかしくないのだろうか?