見出し画像

『西村賢太対話集』の装幀は『尾崎一雄対話集』をなぞらえたもの?

西村賢太対話集 & 尾崎一雄対話集

西村賢太対話集 (2012年)

尾崎一雄対話集 (1981年)

西村賢太は、おなじ私小説家であるざきかずについて、たびたび言及している。

日記における言及

 ついでに玄関のすぐ横の短冊額を、これまでの平賀元義から尾崎一雄のものに入れ替え、寝室の色紙額を菊池寛から笹沢左保に差し替える。

西村賢太『一私小説書きの日乗 憤怒の章』2012年7月18日(水)

 運んできたのは、今年の明治古典会大市で落札した品の入っている一箱。
(中略)
 川崎長太郎の生原稿二点(創作、随筆)と、尾崎一雄の句入り署名本、それに石原慎太郎氏の限定十五部本で、氏の肉筆油絵が表紙に仕立てられた『太陽の季節』(昭55 成瀬書房)だが、これらは今回首尾よく、すべて下札にて落とすことが叶った。

西村賢太『一私小説書きの日乗 憤怒の章』2012年8月30日(木)

随筆における言及

 芥川賞にしろ二度の野間文芸賞にしろ、その受賞は文壇人脈によってもたらされた観の強い、現在でも、殊にここ数年は実にしばしば見受けられる、例のアレ式の栄誉に数々ありついた、芸術院会員にもなった人物である。
(中略)
 こんなのは、本当だったら到底私の好むところの書き手ではない。が、その作品には滅法魅かれてしまうのである。

「誰もいない文学館」第16回(『小説現代』2017年7月号)所載
第16回 尾崎一雄『子供漫談』

短篇小説「子供漫談」を収録する単行本(墨水書房 昭和17年刊)は希覯書である。
ただし、古書市場や図書館にて入手しやすい『尾崎一雄全集 第1巻』に収録していたり、国立国会図書館デジタルコレクションでは無料登録すれば読める(リンク)ので、短篇小説「子供漫談」それ自体へのアクセスはたやすい。

『尾崎一雄全集 第1巻』には、第5回芥川賞受賞作「暢気眼鏡」、「よし」、西村賢太の読者ならば見覚えがある字面の「玄関風呂」など、若妻(よし)との清貧生活を描いた一連の短篇小説が収録されている。「秋恵もの」ならぬ「芳枝もの」が一通り読めるので、「子供漫談」に興味がある人ならば手にとって損はない一冊だ。

初期の代表作を中心にをまとめた短篇集(「子供漫談」は未収録)


暢気眼鏡
芳兵衛
擬態
父祖の地
玄関風呂
こおろぎ
痩せた雄鷄
華燭の日
退職の願い

暢気眼鏡(新潮文庫) 収録作品