第七章 電車
其の電車には、五六人しか乘客がいなかった。皆雨に降られたらしい連中ばかりだった。それらが皆、賣られて行く鶏のたたずまいでも見るように、哀れに寂びしそうな樣子をしていた。
私は其處で、それらの人達の拵えと、自分のそれとを比較してみたりした。だが私は、それに依って少しも慰められはしなかった。それと云うのは、皆私のように、自分の身分とか、自分の職業とか云ったものに、全然不調和な、そんな慘めな風をしている者は、ただの一人だっていなかったからだ。私はひとりでに首を垂れ目を伏せて、凍えたようになっていた。其の中、電車は水道橋へきたので、私はまた其處で乘かえることにした。