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あっぷあっぷして溺れそう

私は障害者。

てんかんと双極症の患者である。

ふだんは障害者雇用で企業で働いていて、そこの人々は私を差別したりしないし、自分の口から体調を尋ねてきたりしない。かといって無関心なのではなくて、1on1で上司に体調が良いことを伝えると、「よかった」とやさしく安堵していらっしゃる。

そんな境遇なのに、私はあっぷあっぷして溺れそうなのである。

*****

ある日、ミスをした。

在宅で勤務していたとき、係長から電話がかかってきた。私が一斉メールで部内に送った内容が不十分で、誤解を招きかねないという。

「やる前に周りに確認してね」と釘を刺された。

ショックだった。やってしまった・・と身体が動かなかった。

凹んだ。

さらには周りにも迷惑をかけてしまったという。先輩社員が他の部署を駆け回って、私が送ったメールの説明をしてくださったらしい。

申し訳ない。

すぐにその先輩に電話して謝り、「次からはきちんと確認します」と宣言した。

先輩は物腰柔らかく、自分も手が回らずすみませんとのことだった。

*****

その後、ショックは長く続いていて、しんどかった。

何度も何度も思い出す。

何度も思い出しては辛い気持ちになる。

私はできない人間だ。周囲は呆れているだろう。悪口を言われているはずだ。社員登用が難しくなるかもしれない。私の印象がもともとよくなかったのかもしれない。などなど。

推測ばかりで自分を苦しめる。

何度も何度も。

しんどい。これはしんどい。

*****

なぜこうなるのだろう、

と思う。

たぶんそれは、ふだんから自分が出来そこないだと思っているからだろう。

私には左脳の海馬がないのだが、これまで記憶力には苦しめられてきた。仕事内容を理解するのに時間かかるし、人名は特に覚えられない。それでどうするかというと、メモを必死に取ったり人に聞きに行く。メモをし忘れて再度聞きに行き、「何度もすみません」と謝る。

思い出せないたびに歯がゆさ、申し訳なさを感じてきた。苦虫を噛み潰したような顔になっているだろう。健常者の社員さんたちはすぐに覚えているのに。足を引っ張っていて申し訳ない。ことごとく劣等感を抱いていた。

コミュニケーションも下手である。周りにいる社員たちは優秀で、ふだんもコミュニケーションを上手に取りながら仕事を進める。そんな中で私はなんとかこれまで鍛えてきた武器を精一杯使って溶け込もうとして、ニコニコしながら周りと上手くやっているようにも見えるが、裏では非常に疲れている。
コミュニケーション能力が低いぶん、周りに打ち解けられていない気分になり、ストレスになる。

常にこういう劣等感を抱いているところに、ミスが発生して注意を受けると、もっと苦しくなる。自分はやっぱり、周りから見ても「できない人間」なのだと強く確信してしまう。

もともと自分で自分を苦しめているところに、外部からもお叱りが入ると、もうギブギブギブ!ストップ!降参!となるのである。

自分で自分を苦しめないようにすればいいのだろうが、これは大変だろう。

そう簡単には、改善しないからである。海馬がないのに健常者並みに記憶力をつけることは、絶対に不可能である。

コミュニケーション自体がしんどいのに、突然上手くなるはずがない。それに加えて仕事が分からないときに聞きまくっているから、常に聞こうか聞くまいか迷う。忙しそうなのに質問に行ったら迷惑かもしれない、と思ってしまって自分で判断して、結果的にミスに至る。

そこに上司から「やる前に周りに確認してね」と言われてさらに凹む。コミュニケーション自体にしんどくて、力を抜くとミスしてしまうという悪循環。

入社して数ヶ月でまだまだ半人前なのもしんどい。わからないことばかりで使えない身分なのも、自分を苦しめる。できるようになると自信がつくのだろうが、できない自分と直面するのは辛い。半人前から早く脱皮して一人前になりたい。なりたいから自分で判断して進めてみたら、ミスになってしまった。周りにも迷惑をかけてしまった。やっぱりできない人間なのだと自分で自分に烙印を押す。

記憶力に劣等感があって、コミュニケーションが苦手で、半人前の自信が持てない段階にいる。

これは、本当にしんどい。日常的にあっぷあっぷしている。

早く脱皮したい。早く一人前になりたい。

障害は治せないけど、せめて一人前になれば、あっぷあっぷしなくなるから、万が一ミスをして注意を受けても、深く凹んだりはしないだろう。「反省、さあ次いこう!」と前向きに歩けるだろう。

そうなりますように。

自分に余裕が持てますように。

*****

障害という、絶対的に克服できないものを抱えているからこそ、自分には優しくしたほうがいいのかもしれない。

自分を可愛がろう。甘やかそう。

きっと、そのほうが生きやすい。

急に変わるのは難しいけれど、ゆっくりでいいから変わっていこう。

そうすれば、あっぷあっぷしなくてすむ。

自分を可愛がって甘やかそう。

きっと、生きやすくなるはず。

そして自分に優しくなれば、他人を受け入れることができるだろう。

そうなる自分を目指したい。がんばろう。がんばりたい。
うん、前むいてがんばる。

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