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Final Dawn (2)

 地球が燃えて終わっているのを見てから2日経った頃、一人、また一人と船内から人が姿を消していたことに気がつく。機長に話を聞くとどうやら皆帰る場所を失ったことに絶望し、死にたいと言って宇宙に身投げするようだ。このシャトルから出るには上位の資格を持つ船員にハッチを開けてもらわないといけないので、船員は自殺に肯定的であるのだろうかと疑った。なぜ自殺を止めないのかと聞くと、腹を腕で押され別区画まで行く勢いで回答を阻まれた。「ひどいじゃないか。」そう言うと。「まったくだ、お前も死にたいか。俺は死にたいぞ。」と整合性のない返事が帰ってきた。悲しくなりながら、無い外気に開放を求めて外に出る船員を目の当たりにした。暗い気持ちのまま、夕飯にポークソテーのパウチを開封すると開けるのが下手でケチャップソースがつぶつぶと漏れ出て浮かんだ。船窓越しにあの船員が最期に見せた涙のようなもの、そのものであった。そういえば、もう法は無いのか。

 地球が燃えてから1周間経った。考えてはみたが、なぜ星の表面があれ程焼けてしまっているのか見当もつかない。ガスが吹き出たとか、地熱だとか、大地震とか色々な理由を考えてみたけれど、知ったところで意味をなさない思索に心は乗らず、視線は円軌道にすら定まらない。船内の慌ただしさは消えており、その様子はヴェールを被され静止した鮮魚のように不気味であった。ひんやりと薄暗い照明が照らすバーで死んだように浮かぶ人が3名、個室にこもり呻く人が2名、汗をかき色欲に溺れる人が5名いる。まったく日の間隔がなくなるため、唯一自然が感じられる日光の刺す船窓付近にはよく人が居たものだが、ついに誰も来なくなった。この状況下で自然だとか、癒やしとか、セラピーに関与したものは実際のところもう胡散臭かった。

 私がバーから動かず平静を保ったように見える物腰は第三者の目からは通常体に映ったかもしれない、が心はひどく動揺していた。中央区画の液晶パネルがあるところ、そこのデータベースウィンドウに今の状況が常に報告され続けており、それを見る限りこのスペースシャトル内に残された生命維持資源は今生きている人の分を合わせてもう7日分しか無いという。今になってやっと命が惜しい。メメント・モリなどと、洒落込む暇があったなら今は心が疾くこの場を去ってしまいそうで、生きる希望を探すよりかはただ直視しうるだけのインスタントな快楽を求めて酔っていた。

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