Play Ball.
スプリング通りで下車した日は北に緑とベンチ横をスキップで
ハウストン通りで下車したら東へ並木道の下大股で歩く
そして一番好きな交差点
アメリカ通りとプリンス通りが交わるところへ辿り着く
向かいのコンビ二のパトロンは韓国人
最高の5月の陽気の中20ドル握りしめ買うは1ドルのパクチー
おつり19ドルとレジ横のリンツのチョコレートのおまけ
行く度に絶対チョコレートを持たせてくれるお兄ちゃんに
今日は残ったおかずを持って行く
トーフと南瓜炒め白みそ和え。魚入り。
おいしいご飯はひとを幸せにするのだ。
わたしは幸せになるために、
ひとを幸せにするために、ごはんを作る。
料理をちゃんとはじめて、やっとしばらくがすぎた。
最初こっちにきたときは、大口叩いて潜り込み
ものすごく料理の経験があると勝手に勘違いされ、
あれよあれよと事は進んで
いきなりキッチンに一人に放りこまれたときは正直ビビったもんだった
でも3回くらいやれば「できる」ようになるのではなく
「なんとかなる」ってことを学び、そして今に至る。
いまも厨房は大体毎晩めちゃくちゃになる。
でもそのめちゃくちゃは、ときどきちょっと整然としてる日もあり、
荒れ狂って最低な日もあり、
今日はまあぼちぼちかいなってとこなのだ。
これまで、料理をするのはある意味楽しくもなく、
「おいしい」と言われれば
「ほんとかよ、ぜったい嘘だろう」と思い、
何もコメントが無ければないでへこむ、
結局なにをつくったとて
ちっとも面白くなかった。
でもここへきてようやく、料理をするってことが、楽しくなった事は、
そう、快挙で革命なのだ。
結局週末はバーモントで過ごし、到着したとたん始まる夜ご飯の準備。
人数は、えっと、最低10人分といったところ
そこにあるもので、昨日とれたばかりのそれで、
限られた調味料で、
次々と即興を奏でてゆく。
いつかずっと前にここに滞在してたとき、
お客さんに何度かご飯をつくったことがあった。
でもその時とはまったく違う感覚がした。
目が開いてない赤ちゃんが、次第にしっかり世界がみえるよになったくらいか
モノトーンだった世界が、とつぜんカラフルに彩られたような
そんな痛快な変化
そして前よりずっと簡単にそれができたことや、
なによりも自分が一番楽しいと感じた事。
リアルに進化を感じた瞬間、ああ、よかった何とか続けてきて
と、心から胸をなでおろした。
つまり、出た答えはその、美味くても不味くてもいいのであった。
イマイチであろうが、大失敗であろうが、何ら問題はないのだ。
とにかく大事なことは、自分が楽しいかどうかってこと。
舌で遊ぶ、常に感じる、言い訳は結構、甘さか塩加減、
酸味、苦味?香り、深みにアクセント?
目を閉じて、集中して、バランスと、客の舌を想像する。
それだけで、結構満足。
やつらが喜ぶのがどんなか、ざっくりこの手で
つかみ取る、
そういう飲込みとセンスだけであとはどうにかなるものだ。
それでもって、たまたま美味しいもんが出来上がったら
ラッキーってことで。
まだまだイライラしっぱなし、死んでも料理がしたくない日。
そんなときは確かに、
死んでも料理がしたくないのにするわけだから、
死んだほうがマシな気分になる。
それでもフライパンをふりつづけてきて
わかることが、ある
それとは対照的に
感覚が研ぎ澄まされているとき、それはそれは、それはそれはそれは、
楽しい。
野菜たちと奏でる夜。
指先からいちばんセクシーなマッシュルームの肌を
やさしく撫でるともう声がきこえてくる。
芽キャベツは、類いまれなるキュートな命と、
ルックスとは裏腹のつんとしたギャップにやられて
たまねぎで遊ぶ、プレイボール!
キッチンの端から端へ、C-o-m-e- o-n!!
ねえ、最近どうよと話しかけるはいつもお世話になってます、
椎茸の君たちで。
My Baby, もちろん白菜を両手いっぱい抱きしめて。キス、キス、キスの嵐!
どんなにガンバってもあか抜けない人参は、
その土臭さとダサさのバランスも
ふくめて完璧としか言いようがない。
ブロッコリーは、やっぱり、期待を裏切らないんだよ。
さあ、今日届いたばかりのゼンマイの季節感、
ようこそ私の手の中に。
うるうるうるうる水分をめいっぱい含む野菜達が、わたしのともだち。
彼らが、わたしを、セカイを救う。
し、らんとろ。シャンツァイ、つまりはパクチーでもありつつ、
コリアンダーで、
し、らんとろ。
そこの畑からもぎとってきたばかりのバジルの葉が、
世界で一番美しいってこれまでどうして知らなかったのか?
みたことのない野菜、rampはネギの親戚で、
ともかく情緒たっぷりでお願いします。
鼻先を絶対にくすぐってひれ伏すしかないセロリには
頭が一生上がる気がしない。完全降伏完了。
半袖に着替えてからというもの、腕に火傷の跡が絶えない。
6つのコンロをフル稼働させるピーク時の汗だくのエクスタシー。
小さい事にぶち切れて地団駄を踏むアップとダウン。
鍋のふたは、シンバルと化して歌う
絶対リズムに合わせてフライパンを振る
大音量のラジオから流れる定番の曲は一日に3回かかれば最高、1234肩を揺らす
ぎゅっと息ができなくなったときに裏口のドアを勢いよくあけて
流れる5月のマンハッタンの夜風が
この世で最高のご褒美
大好きな人に触れる、怒る、笑う。
わたしが、この指を守るためにはめていたビニールの手袋。
爪の間にとれない汚れと匂いと真っ黒になるのを承知の上で
外すことにしたわけ。
もっと、触れたい。
温度と感触と、すべてとつながるために。
彼らと一番近くなるために。
そんな
シゴトな日々。
謳歌...
そりゃもう。
May 12th, 2009 in New York - story on the table -
○2017年8月追記
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