KOBO -パンを焼くまでの50時間
この世界は生と死で成り立っていて
その、フレッシュな生の近くで
何かが確かに命をそっと
育まれているのを眺めているのは
これ以上ない喜びと祝福をはらんでいる。
ニューヨークに住んでいたころ
ブルックリンに住む友人が
「最近こうじで玄米の甘酒をせっせと仕込んでいる」というので、
24時間走っている地下鉄に乗って
訪れると
そこにはヒーターの上の一等席にどしっと腰掛ける、
真っ赤なルクルーゼが居た。
贅沢に、布団をかぶって、そのなかですくすくと、
ぬくぬくと成長する甘酒。
日本にいると、とてもこんなことはやろうとも思わない。
スーパーで甘酒は買えるわけだし、
田舎のおばあちゃんじゃあるまいし、
第一、そんなに暇じゃない。
外国に暮らすことのひとつのよろこびは、
こうして「手に入らないもの」をていねいに、時間をかけて、
一から作ってみようと思うことや、実際にそれを楽しむ時間なのだった。
そして、見慣れたはずの、野暮ったい「あんこ」とか「甘酒」みたいなものが
ブルックリンの2階のスタジオアパートメント(ひとりぐらしようの部屋のことをStudioと呼ぶ)の、部屋の角っこにあるオイルヒーターと
可愛いヨーロッパの鍋とかけ合わさると、
魔法みたいに粋に見えて胸はときめく。
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