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尻尾

実家は徒歩10分のところにある。

ゴミの日の朝、ゴミを息子のベビーカーにぶらさげて、散歩にいく。

うららかな陽気の下、歌をうたいながら

幸せなきもちに包まれるひととき。

そして実家に

げんきに挨拶をし、

折り返し、帰る。

マンションは高台にあって、見晴らしがいい。

坂をゆっくりと、くだる。

坂の一番下の正面には、いつもの、セイユー。

数メートル下りた道路の真ん中に、

フサフサしたものが

見える。



猫の、

尻尾だ。

それは、目を疑うような、

ぬいぐるみのおもちゃではない

本物の、猫の、尻尾だった。

そして、

あまりに見覚えのある、色つやと、

実家のナーバスで若くて美しいねこ、

ひめちゃんの尻尾。




何が起こったのか、
背筋が凍るような風景から
自分を切り離して


一瞬目をこすり

おそるおそる確かめる。

”ひめちゃんの尻尾でありませんように。”

それは、

先っぽの1.5センチくらいが曲がった

まぎれもない彼女のかぎしっぽだった。

車に轢かれた様子も、

コンクリートに血がべったりついた様子も

なにひとつ痕跡がない、

ただ、そこにある、

血の通っていない、

尻尾

いまだに、何が起こったのか

何が起こっているのか

わからなすぎて

村上春樹の小説のなかに迷い込んだような朝だった。


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