Der Erlkönig サイドストーリー

Der Erlkönigの追加コンテンツの一部として収録予定だった、各キャラ(一部、後々増えるかも)の過去などのサイドストーリーです。本編のネタバレを含むので、クリア後の閲覧を推奨します。

イザヤ/死霊術師

子供の頃から、霊の声が聞こえた。
それが当たり前だと思っていた。
死んだ父さんの声を皆に伝えようとする僕を、周りの人達は怯えた目で見ていた。僕の母さんも。
そんな子供に友達ができるはずもなく、話し相手はいつも墓場の霊たち。
それでも楽しかった。僕だけの特別な力だから。
例え、皆に忌み嫌われていても。

霊と一言で言っても、その性質は様々だ。
生前の楽しい思い出を話しただけで、満足して消えていく霊もいた。
どうしようもない未練に囚われて、僕に助けを求める霊もいた。
世界に干渉できない彼らは、口がないのを良いことに、生者によって都合よく歪められ利用される。
その悲しみと恨みは凄まじく、哀れだった。
そんな霊を助けたい一心で、僕は必死に魔術を勉強した。ついには肉体を与えることにも成功したんだ。

その頃だったと思う。彼が、僕の前に現れたのは。
「君の、その唯一無二の素晴らしい力を、私に貸してはくれないだろうか」
月光の元に角を晒したそれは言った。
僕を嫌い僕が嫌う人間の、その敵が。
皆が忌む僕の術を、素晴らしいと。
……そんなの、頷く他に無いだろう?


教団の主/魔王の娘

突然、私は現れた
あるいは、父が自らの一部を切り落とし、私とした
成長も老化もしない存在、神の端くれとして
私を産んだ私の父は、人を近付けるなと言い眠りについた
だから私は人を見た
こちらに来る者はいないかと

人を見た

人は忙しく動いていた
木を組み、骨を作った
石を積み、壁を築いた
私の目に美しく映った

希に人はこちらへ来た
私を見ては逃げ去った
逃げ去らない者がいた
彼らは私を神と崇めた

彼らは救いを求めていた
同じ人間に害されていた
私は人間を知りたかった
違う人間に惹かれていた

私は彼らに救いと安全を与える
彼らは私に文字と書物を与える
彼らが私を愛し私が彼らを愛す

目覚めた父はそれを酷く咎めた


禁じられてなお、尽きることの無い彼らへの興味。
ああ、きっと私は愛なのだ!
父が不要と切り捨てた愛なのだ
建築も、書物も、それをつくる人も、すべて我が父が見たもの、愛を抱いたもの
私は、私/父が愛したものを守らねばならない
戦争を、終わらせよう


ダニエル/父

初めて人を殺した。
……否、これは人ではない。血は流れない。
あくまで魔王、人を模した存在に過ぎない。
今までに殺してきた、他の魔物と同列の存在──

……魔物と同じなら殺して構わないのか?
魔物なら殺してもいいのか?森の獣は?
人間でなければ罪に問われないのか?
発展の為ならばこの行為は許されるのか?

俺は一体、いくつの命を斬り捨ててきた?

手が震える。息が上がる。
辛うじて握っている剣が重い。
かちどきが嫌に頭に響く。

魔王を倒して、ゴールに辿り着いて初めて、ここに来るまでの道を見返した。
道は死骸で埋め尽くされていた。

熱に浮かされていた。
倒した分だけ称賛されるのが嬉しかった。
言い訳はいくらでも思い付く。
だが罪の意識は影のようにどこまでも付きまとってきた。

息子が亡くなったことも、自分への罰だと思い込んできた。
それが後に、より大きな贖罪を求めてくるとも知らずに。


魔王/神

──熱い。
喉が焼けるように痛む。
地に伏した体を起こそうとして初めて、自分の頭と胴が繋がっていないことを思い出した。
あの赤い髪の青年に首を切られたのだ。
私は、魔王は敗れたのだ。
人間どもが放った火は未だ木々を焼き、森を侵している。
力を使い果たした私にそれを止める手立てなど無く。
──憎い。
森を守れなかった私が憎い。
森を殺した人間どもが憎い。
この地の神として降り立った私は、彼らを守り、多くを与えてきたはずなのに。
それを、彼らはこのような形で返してきた。
許せるものか。許してなるものか、我が愛し子らの反逆を──


この時代において神は無力であった。
人間を殺めるどころか、彼らから森を守ることすら敵わない。
もはや、人間の相手は人間にしか務まらぬ。
──私は、より人に近い存在へと成らねばならない。

人間の魂を喰らおうと決めた。
人間の魂を取り込み、人を制する人の力を得ようと。
強い魂が欲しい。
あのダニエルとかいう男の魂が欲しい。
だが叶わない、力量の差があまりに大きい。
幸いにも奴は子を成していた。
馬を駆る親子を、闇に乗じてつけ狙う。
甘言を囁く。脅す。腕を引く。
愚かな父親は、私の存在にも、私が子供の魂に手を伸ばしていることにも気付かない。

そうして手に入れた魂。
強き人間の血を受け継いだ者の魂。
呑み込めば全て私の力となる。
だが、他ならぬ私がそれを拒絶していた。
この世に生きとし生けるものは全て私の子。愛すべき我が子。それを喰らうというのか。強く、しかしまだか弱き存在であるそれを。
ああ、紛うことなき自己矛盾!
人を滅したい、さりとてこの子を喰らいたくは無い。

結局私は魂を口に含むことすら出来なかった。

……無垢なるこの子を染め上げよう。
人に害を成す人として、自然の為に生きる人として育てよう。
ああそうだ、これは憎きあの男に絶望を与えるための策なのだ。
絶望を。
我が子に牙を剥かれるその悲しみを、怒りを、私がお前達に与えられた感情を!


テオ/子

死んだ時のことは今でもはっきりと覚えている。
骨張った手に腕を掴まれ、背後の父親に泣き付くも笑われ取り合って貰えず。
もう一方の手が体の中に入り込んできて、そのまま──。

生き返った直後のことはほとんど思い出せない。
鬱蒼とした黒い森に、魔王とその娘と僕と、3人きり。
どうやって暮らしていたのだろうか。魔王を恐れはしなかったのだろうか。

脳裏に焼き付いているのは、魔王が見せてきた過去の幻。
彼の魔術で戦争の風景がよみがえる。
眼前を埋め尽くすのは燃え盛る炎。
木が焼け倒れ、銃声が響き、鳥獣の骸が横たわる。
これがお前の親達がしてきたことだ、と。
術を解いた魔王は、涙を流していた。
……そのときにはもう、魔王への警戒心は無かったんだろう。

可哀想だと思った。

「私は森を守れなかった」

憎しみにも近い怒りを感じた。

「奴らに奪われた土地を取り戻すだけの力も既に無い」

彼を、深い悲しみから救いだしてあげたかった。

「……お前が、新たな魔王となってはくれないだろうか」

それで、貴方の傷が癒えるのなら。

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