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漫画家の死で脚本家を叩く前に知っておきたいこと

この記事は

1月29日、漫画家の芦原妃名子さんが、栃木県日光市内で死亡しているのが発見されました。自殺とみられます。まずは、芦原さんのご冥福をお祈りします。

彼女の作品「セクシー田中さん」は昨年ドラマ化され、つい先頃、最終回を迎えたばかり。彼女を死へ追いやった犯人・脚本家を潰せと大炎上。

これに対して「ちょっとまって」と感じたので、まとめます。


セクシー田中さんとは

芦原妃名子による人気漫画で、2017年9月から連載が続いていました。

婚活OLの倉橋は、立ち寄ったレストランで初めてベリーダンスを鑑賞する。妖艶に踊るダンサーに目を奪われ、後日、それが自社の経理部で働く地味OL田中だと知った。

ベリーダンサーであることを隠したい40歳の田中と、若く可憐な23歳の倉橋は徐々に交流を深めていく。

この漫画は、田中と、田中に出会い人生を変えていく大人達の物語・・・だそうです。

だそうです、というのは、まだ読んでないから。正直、ニュースとなるまでタイトルすら知りませんでした。

漫画はまだ連載中ながら、脚本家・相沢友子の手により10話完結のドラマ用脚本となり、2023年秋のドラマとして放映されます。


炎上までのあらまし

タイムラインを追ってみた

セクシー田中さん、日テレ系で制作決定

原作者の芦原は、原作を大切にした脚本とするよう依頼

放映開始

あまりに原作と異なる展開に芦原は驚く

残り2話の脚本を見た芦原、限界に達する。このままでは原作の結末にも影響してしまうと、ドラマのプロデューサーへ抗議

残り2話の脚本は芦原が書くことになったと発表される

最後の展開に不満を抱くファンが疑問を呈する

脚本家の相沢はSNSで「最後の2話は私じゃない」と書く

お仲間の脚本家は相沢を擁護。原作ファンは芦原を擁護。Xで炎上開始

相沢は過去に「原作改変」で叩かれた作品の脚本家でもあった

原作改編で嫌な思いをしたことのあるアニオタや小説好きを巻き込んで炎上拡大

これを受け、芦原は自身のブログを更新。なぜ残り2話を自分が担当したかを暴露

「敵は相沢!」とばかりに脚本家がパブリックエネミーと化し大炎上

芦原、ブログを削除

芦原、Xに「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」とポストし、最後の投稿となる

翌日、栃木県日光市のダムに身を投げ、自殺。遺体で発見される


炎上3パターン

  1. 芦原さんが可哀想! 原作を改編した女脚本家・相沢を許すな!

  2. 相沢も被害者! 脚本家だって大変なんだ!

  3. 芦原の味方をするフリして相沢叩きに興じるSNSのクズが芦原を追い込んだ!

アニメや小説のファンは、本来の魅力を跡形もなく踏みにじる改編を「原作レイプ」と呼んで嫌悪します。感情としては当然、1番です。

↑1番の視点。オリジナリティを発揮したいなら脚本じゃなく自分で創作しろと怒る人

一方でマスコミ関係の人達は、ビジネスの側面から相沢を擁護する2番のスタンスを取りました。

↑2番の視点。脚本家だってオリジナルをやりたいんだよ、脚本家もつらいんだよとする意見。

1と2のバトルは大いに広がり、3の意見が出てきた。SNSでバトルやってた1の連中も加害者じゃねえのと。

僕も当初、3の意見(SNSで脚本家を叩く人こそ加害者)に同調したものの、以下のポストを見て我に返ります。

↑明らかにネット民が悪いと断言するフリーの編集者。芦原本人でもないのに「明らかに」とは何事だと感じた。

↑SNSで騒ぐ人を加害者として扱う

3の立場を取る人は「第三者的な意見に見せかけて、評論家を叩く1番を加害者に仕立て上げようとする2番側の人間」なんですね。これはさすがに卑怯な所業です。

一方、多くの漫画家さんは極めて抑制的に言葉を選んでいました。原作改編ドラマでの視聴率爆死パターンは過去何度も発生しており、我が子のような作品を蹂躙された友人達を、彼らは大勢見てきた。

だからこそ、芦原の死を我が事のように捉え、「芦原先生の気持ちを汲もう」と感じたのでしょう。


改編する脚本家は本当に悪いのか

ただし、僕は1にも同意しづらかった。命を絶った芦原は気の毒だし、ファンが原作改編に怒る気持ちも分かる。でも、ちょっと待てよと。

脚本家って、そんな力、ないよね?

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