年々、雨が好きになっていた。
この世界から明るい気持ちを奪い取ってくれる。
そして僕が一人、ぽつりとこの世界に存在している。

きつく結ばれた繊維の中から
小さな雫が落ちていった。
それは、太陽の明かりでは、爽やかな風では、
到底消せない想いだった。
始まれば終わると知っているのに
それでも尚絞り落とした。
永遠のような一瞬のような旅を経て落ちてくるその雫が、
ただ猛烈に羨ましかった。



いつもなら溢れてしまうものを
雨の今日だけはしまい込んで。
見られてしまったら、知られてしまったら、
憎くも愛してきたすべてが
断りなく無造作に落とされてしまうから。

懐古主義の君へ。
今日だけは過去の記憶を思い出して
かつて主人公だった自分の名前を声に出して。
目の前で死んだ雫は
君が生きたことを知らない。

あえて長靴を履かないで、
靴下を濡らして帰ろうよ。
裸足で家を駆け回るあの感覚と
早く仕事を切り上げて帰ってくる母のことが
とっても大好きなの。



「怒ったり、笑いながら泣いたりさ。なんだ、とても我儘で身勝手じゃないか。」
雨のことを言っているのか、自分のことを言っているのか。とても馬鹿だと僕は思った。
自分自身こそが雨であると
それに気づいている僕はとても頭がいいと思った。

それだけで生きていけるとも思った。

今日は、晴れてしまったな。

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