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敗北の味「カムカムエブリバディ」雑感

 春になりましたな。となると朝ドラが終わる。
 今回の朝ドラ「カムカムエブリバディ」完走しました。一番心を打ったのは安子編の最終回。久しぶりに思わず号泣してしまいました。
 第二次大戦で戦争で夫と和菓子屋を営む家族を亡くした安子は、一人娘と自立しようと奮闘しますが、生活に追われ、ついには愛する娘に嫌われて、親しくなった米兵と渡米してしまう。

 彼女は負けたんだ。完膚もなく。そう思うと泣けてきて泣けてきて。
 アメリカにそして、女性の自立を許さない封建制の残った社会に。今まで朝ドラでここまではっきり負けを描いたことはあっただろうか。
 今までの朝ドラのヒロインは実話ベースもあってほぼ女学校卒なんですが、かっきりと学歴のない女性は初めてかもしれません。
 そういった悪条件のある女性は負けるしかなかったと思い知ります。しかし、当時の女性のほとんどが同じ立場だ。
 そして、母を憎む娘と母は和解できるのだろうか、そういう興味で物語にひかれていきました。
 最終章で大和なでしこだった安子の老年期を元気で活気のある森山良子が演じていることが批判されていましたが、そこに隠されたこの物語のテーマがある。
 上白石萌音演じる安子に制服メーカーを営むご大家の息子の稔、そして、弟の勇も夢中になる。どうやら、父親も気に入っている。なぜか。
 それはとてつもない生命力のある女性だったからですね。それは封建的な家や世の中でよどんだ空気を切り裂く力があったから。だから、もし、稔が生きていても二人は家を出ていく道を選んだのではないのかな。
 それは彼女が英語とジャズに夢中な稔に惹かれることに現れる。
 アメリカ、自由な生き方へのアクセスをもつ稔だからひかれたのです。
だから、お母様のあつかましい女という見解は正しい。
 あの当時の欧米の文化へのやみくもなあこがれ、映画、ジャズ、みんなは夢中であこがれた。
 しかし、そこには影がある。二人が好きな黒人差別に悩むルイ・アームストングの前向きすぎる歌に隠されれている。
 アメリカが完膚もなく日本を攻撃したのは決して仲間にしたくない。まして、自分たちを害するなどという事を許さないという影です。
 そのために安子はすべてを失ってしまう。この時点で転落したり、死んでしまった人も多かったのではないかな。
 しかし、前向きに生きた人も多い。それには改めて欧米的な価値観を取り入れていくしかない。今までと違う日本人になるしかない。そういう百年の物語が隠されている。
 しかし、できなかった人もいる。そういう人達の和解を描こうとした物語なんだと思います。
 だから、泣けた。私たちの先祖は負けたんだ。

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