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クロコダインの博打、バダックの価値観 〜ダイの大冒険(2020年版)第20話〜

ダイの大冒険(2020)の20話が放送された。今回はダイが完成したアバンストラッシュで鎧武装フレイザードを撃破し、人間たちが勝利の宴を開くまでが描かれた。

ヒュンケルに敗れたハドラーが復活するシーンから始まった。このあたりは原作どおりだが、今回ふと気づいたのは、復活したハドラーがミストバーンに対して「望むところよ」と言い切るシーンなど、特に自信たっぷりな感じがした。要するにこれはハドラーが武人の魂の萌芽を見せたというか、成長に対する貪欲さを示したというか、いずれにしても後の「武人ハドラー」に成長していく経緯の始まりだったように思う。といいつつ、バラン戦のあとでザボエラを連れて、せこい作戦でダイたちを暗殺しに行っているわけなので、結局まだまだ萌芽であって、武人ハドラーまではもう少し色々な出来事が必要になってくる。
そのあたり、実は主人公側のポップもまったく同じで、臆病な振る舞いをしたあとで、勇気を絞って立ち向かうものの、やっぱりまた臆病になったりする。それを繰り返しながら、少しずつ「勇気の使徒」として覚醒していく。
かように考えると、「勇気と成長」という軸では魔王軍か人間たちかというサイドの違いはあれ、ハドラーとポップがたどった経験は驚くほど似ていて、それが最後に交わるというのがまた、ダイの大冒険の魅力なのだなとふと気づいた次第だ。

さて本編に話を戻すと、鎧武装フレイザードが誕生(?)し、クロコダインを力で押しつぶすシーンで、地面の崩落ぶりがすごいなと思った。描写を見たところ、なんかすごい高いところからクロコダインとバダックさんが落ちていくように見えるのだが…。そんな高所から落ちた割に、のちにピンピンしていたバダックさんの強靭さはいったいなんなのか。クロコダインが身を挺して守ったのだろうか?

フレイザードに対する、ダイの口撃が切れ味鋭すぎて笑うなーと、今回改めて思った。「なぜだか知らないけど、こいつには負ける気がしないんだ。」これを自然体で言ってのけるのがすごい。

ネットでは、「アバン流口殺法」というミームがあるのだが、要するにアバンが敵に言う挑発の口撃が切れ味鋭くて、敵をいい感じに逆上させたりして自分のペースに乗せていくのが得意という話。それが、アバンの使徒のうち数人には確実に引き継がれているような気がする(笑)。物語全体を通してみると、特に強力だった口殺法の使い手である使徒は、今回のフレイザードに対するダイ、ザムザに対するマァム、マキシマムに対するヒュンケル、真バーンに対するレオナ、このあたりだろうか。ポップはあまり特筆すべき口撃がなかった気がする。それはしかし、「恐怖心を克服し、勇気を持つ」という彼の物語として考えると自然か。恐怖があると、なかなか口殺法は出せなそうだ。

さて話は進んで、フレイザード打倒後にレオナを氷漬けから解放するシーン。ここで原作にない驚きのシーンが追加されていた!ポップがベギラマをかけるも、魔力が足りなくなって倒れてしまい、もはや打つ手なしかと思われたその瞬間、クロコダインがぬっと現れ、真空の斧を手に「こうなったらイチかバチか、こいつで砕いてやる」とレオナの氷漬けに向かおうとするのだ!それを必死で止めに入るバダック。いやそりゃ止めるわな。そして「むう…なにか他に打つ手はないのか」とあっさり引き下がるクロコダインであった。
このシーン、ぼくはクロコダインもバダックも好きなので、おもしろシーンとして楽しめたのだが、実際どういう意図でこのシーンは足されたのだろう?クロコダインとバダックの漫才というか掛け合いを入れたかったのかもしれない。今回短縮が多い中で、この追加は良かった。

そしてレオナを無事助けて宴に入るわけだが、この中のとあるシーンで私は思わず涙した。2020年版アニメをこれまで欠かさず見て、noteを書いてきたわけだが、正直最初のうちはかなり冷静というか引いた目で鑑賞いたことを認めよう。しかし、この数話あたりからなんか急に自分の中で楽しくなってきて、没頭できる感じがしてきた。そして今回ついに涙した。
で、なんのシーンかというと、宴でみんながいるところから離れて、ひとりでチビチビやっているクロコダインに対して、バダックとほか人間2人がやってくるシーンだ。ここでバダックが「勝利の立役者にモンスターも人間もあるかい」とクロコダインに語りかけるところ。ここで、自分でも予想しなかった涙が出た。
小学生のころからダイの大冒険を何度も読んできたが、このシーンで泣いたことはなかったし、まさかここで泣いた自分に結構びっくりした。

たぶんその理由としては、ダイの大冒険の物語を通して描かれる「差別とアイデンティティ」の構造に対して、私自身が敏感になり、実際の社会で起きることに対して特にそこを意識するようになったためではないかと思う。世界では、人種や民族による差別や、性による差別など、国や地域を越えて数多くの差別が起きている。それを悪だと断じることはできるが、そう言い切ったところで、単に「正義」をかざしているだけではあまり意味はない。大事なのはその問題に対して、自分が当事者意識を持ってどうアクションしていくか、そしてアクションする人を巻き込んでいくか、ということである。
ダイの大冒険のなかでアバンが「力なき正義は無力」と言うシーンがあるが、少しそれに通じるところがあって、私なりに言葉をアレンジするなら「行動せずに振りかざすだけの正義は、むしろ正義を装った愚行たりえる」ということかと思う。
ということまで考えた時に、ダイの大冒険で重要な要素として登場する「種族間の壁、差別」に対して、どう振る舞うかというのは非常に考えさせられるものがある。
そこで今回のバダックだ。最初はクロコダインのでかさにビビっていた彼だが、仲間としてフレイザードを打破してレオナを救う中で、種族の壁という偏見を持たず、フラットな価値観を有する人物として描かれる。それが象徴的に現れたのが、この酒のシーンだ。
かっこいいぜバダックさん。

というところがあったので、上述したレオナ救出のときの謎のクロコダインとバダックの絡みは、効いているなと思った。ナイス演出でした!

さて次回からはバラン編!まさしく「差別とアイデンティティ」の問題がダイたちに降りかかる。ますます目が離せない!

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