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ゴメちゃんの雲上劇場 〜ダイの大冒険(2020年版)第32話〜

ダイの大冒険(2020)第32話が放送された。ダイにヒュンケルが鎧の魔剣を渡し、ポップは死の淵から呪文でバランを攻撃し、そしてダイがバランにストラッシュを決めて親子対決の第2ラウンドが終了するまでが描かれた。

今回のエピソードの主役は誰なのか。実はそれを考えるのが一番むずかしい回のように思う。物語の進行としては、ダイとバランの親子対決がいったん幕引きとなるという意味で、主人公ダイと、父バランが主役だということもできるように思う。
しかし、エピソードを見た私の感想としては、もっとも印象に残ったのは、死の淵に向かっていくポップと、それを引き止めたゴメちゃんのやりとりであった。その最も大きな理由はおそらく、「ついにゴメちゃんがしゃべった!!!」ということにあるだろう。
前回メガンテを使ってしまったポップは、レオナのザオラルも効かず、死に向かって進んでしまう。いわば、魂が肉体を離脱してしまい、戻ってくるのが極めて困難な状態、という感じだろうか。
かつて地獄の騎士バルトスが魔王ハドラーの鉄拳を食らって身体が崩れてしまったときには、魂は肉体に戻ることができず、その一部(?)を魂の貝殻に込めることでメッセージを残した描写があった。今回、メガンテによってポップの肉体は激しく傷つき、魂が遊離している状態なのかもしれない。レオナはザオラルを必死にかけるが、これは考え方としては、肉体にある程度生命力を回復させつつ、飛んでいきそうな魂を肉体に引っ張り戻すような呪文なのかもしれない。
だが、単に確率の問題なのかレオナの技量の問題なのかわからないが、ザオラルは効力を発揮せず、ポップはどんどん死に向かって雲の上を歩いてしまう。
そこでバランにぶっ飛ばされて意識を失っていたはずのゴメちゃんが不思議な力を発揮して、雲の上に現れ、死と生の境の中で、ポップに話しかける。

そのゴメちゃんの表情の豊かさと、声のぴったり感が、印象的だった。涙をボロボロと流し、悲しみにくれるゴメちゃん。
そしてもはや自分は精一杯やったのだから、と生への執着を捨てそうになっているポップに怒りの言葉を投げつけるのだ。
このときに見せる、ゴメちゃんの歯の食いしばりシーンが個人的には今回ベストシーンだった。っていうか、ゴメちゃんってこんな立派な歯があったんだ、という(笑)。

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ポップの感情には再び火をつけ、戦いを諦めない決意が生まれ、そして死亡状態から放つ謎の呪文(ギラ?ベギラマ?イオ?)が、バランの不意をつき、ダイのライデインストラッシュが決まる最高のアシストになる。

というわけで、今回の主役は、私の中では、ゴメちゃんで決定だ。

ふと思ったけど、バランがゴメちゃんをぶっ飛ばしていたことによってゴメちゃんが意識不明になり、それによってポップの「雲の上」に出現できる準備が整ったような気がしないでもない。

原作読者は全員知っているとおり、ゴメちゃんは伝説のアイテム神の涙である。持ち主の願いを叶える道具。という、最後に明らかになる設定が、今回の2020年版アニメでは最初から明らかな状態で構成されているためだろうか、ゴメちゃんの描き方もかなり特別感があるような気がした。

ダイの大冒険の最後を考えたときに、物語最初から人間側(勇者側)にいたメンバーのうちで、死亡ないし行方不明になってしまったキャラを考えてみると、実は主人公ダイとゴメちゃんの2人だと気づく。それ以外には、主要キャラでは、死亡ないし行方不明になったキャラはいない(バランやハドラーは魔王軍だし)。

ダイとゴメちゃんと10年に渡る友情が、世界を救い、そしてその2人がともに居なくなるという、なんとも悲しい結末だ、といま改めて気づいてしまった。
再三ポッドキャストでは語っているのだが、なんとか2020年版アニメでは、最後の物語の終わり方を、原作と変えた形にしてはもらえないだろうか…。ゴメちゃんが使命を果たして世界にメッセージを届けて消滅するのはやむなしとして、そうやってダイのために力を使ったわけだし、ダイは無事のままに完結してもらえないだろうか…。

さてエピソードに話を戻すと、バランとの対決が終わったあとで、ハドラーがバーンに呼び出されて、叱責されて、過去の失敗をカウントされて、死刑宣告寸前に至るシーンが描かれる。このシーンが、「苦しむ中間管理職ハドラー」というネットミームというか、キャラ論の生まれた一番の理由だろう。
以前にバーンとハドラーが絡んだシーンがアニメの描写として出てきたとき、私は、そのシーンに間がないということを文句を書いたが、今回は演出の間合いもちょうどよい感じがして、良かった。

しかし思うのは、バーンが一番怖く描かれているのは、この今の状態というか、幕の向こうにいて顔がまったく見えていない状態だなぁということだ。のちにハドラーが超魔生物となって、はじめて幕の向こうに顔が見えるが、その老人状態のときは、思惑が読めずに怖いというよりかは、威厳という印象が強くなる。そしてミストバーンから肉体を受け取って真バーンになると、もう完全に自分の力に酔った若者という感じになり(笑)怖いというか「やたらハイな強いやつ」という印象である。

そういえば、ハドラーはダイとの真竜の戦いからのキルバーンの罠阻止の中で灰になってしまうので、真バーンの姿を観ることがないのだった。完全に実現しない妄想だけど、天地魔闘の構えをダイとポップとハドラーの3人で破りに行くみたいなところも見てみたいものだ(笑)。

さて、次週は「ザボエラの奇策」。次回予告シーンとタイトルでほぼすべてネタバレしている!そして奇策というタイトルだが、これは主人公側の見方であって、ザボエラのキャラを考えると、むしろ「ザボエラの常套手段」という気もする(笑)。

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