かつてきみと渡った橋は

だれもが立ち去ることができる街角までともに歩いた。川の底にある小石のことばで語りかけることができればきみをひきとめることができると信じたかった。きっと見送ることができないという理由でひきとめたかった。

かつてきみと渡った橋はほんの一瞬のキスにすぎなかったが、背後には暗がりがひろがっていて、私たちの後ろ姿はその暗がりに刻印されていて、でもふり返るだけでは見ることができない、それは夜の中の夜なのだと感じながら橋をわたった。

なにを思い出せばいいのか。告白に欠けた触れ合いのあとで蒸し暑い夏がやってきた。蝉が鳴いている。別れてきた者たちによって私は生かされている。

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