そこはすでに夏の窓枠

すぐそこ窓枠にまでもう夏がきていて
横断歩道が終わるまでいっしょに歩く見知らぬ同士ふたりに
よけられそうな初夏の小雨が降りかかっているのである
わたしはそのころ
雨粒ひとつひとつは打撃であり
その打撃から水が生じると考えていたが
虫たちもそう考えていたはずである

顔を見失うと声を見失うので
「声は顔から出てくる」というメモを残しておくが
見知らぬ同士ふたりのつかの間の横断歩道に初夏は開かれていたのである
曇り空のように不安に耐えながら
そのころわたしは見知らぬひとと
横断歩道が終わるまでいっしょに歩いていたのである

小雨の中で火が尽きようとしていた
愛が風に散ったひとつ前の愛の灰からよみがえろうとしていた
次の愛の両足が同じ鎖につながれていたとしても
火を守るものはいた
鎖に繋がれ声をなくし転がる石になって
衰弱に耐えているすがたで火を守るものはいた

雨そのものに音がないように
季節そのものにすがたはないと聞いたことがある
しかし季節を知っていればその季節の方もわたしを覚えているのである
燃え尽きてしまった春の灰から夏がよみがえる
そのころわたしは
たった一度の約束の線で多くのものと結ばれていたのである

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