I of Spare

夜、明日に備えて眠ったそのまま目覚めることなく息を引き取れたならと理想の死を語ったことがあった。夜でなくてもいい。昼寝でも、その二度寝でも、寝ようとして眠りに就いた後 何らかの原因によりその死に気付くことなく絶命する。それ以上に望むことなんてないようにも思える。

自分の友人や恋人がそのように眠ったまま目を覚まさないなんてことがあったら酷く狼狽えるだろうし、悲しいし、恐ろしい。シンプルに嫌である。だけれども、自分が何の拍子もなしに死にたいなと思う時は薄情にも誰のことも頭には浮かばない。その時その瞬間には死という選択肢しか残っておらず、生きている状態の私という存在を繋ぎ止めておく他者ーー、即ちその他の選択肢、この世の全てが見えなくなってしまうのだ。

そんな時、とりあえず私はトリップする。死の工程みたいに、目を閉じて深呼吸をする。宛ら愚直な夢追人のように、理想を擬える。それは文字通り小旅行かもしれないし、はたまた小気味良い幻覚状態なのかもしれない。そうして脳内に映し出されている何人目かの私がそれぞれ思い思いの死を遂げた頃、私はその死に漸く満足して、死の疑似体験を終わらせる。気の済むまで私の屍が積み重なった暁には、他の選択肢が用意されていることに気付く。それでやっとこちらに帰って来れるのだ。まだ生きるに値する、というよりは、まだ死ぬには値しない。といった具合で。
こうして平行世界の私は今日も一人また一人と死に続けている。その世界線がいつこの(今このnoteを書いている)私の世界線になるかは分からない。

もしかしたら今日かもしれないし、明日かもしれないし、それより先に天寿を全うしてしまうかもしれないし。

たった一人の(今このnoteを書いている)私を守る為にいつも沢山死んでくれてありがとう、違う世界の私たちよ。願わくばその死がどうか穏やかでありますように。アーメン。

違う世界の私より。


気ままにどうぞよろしくお願い致します。 本や思考に溶けますが。