Tiktokからの楽曲引き上げに関するユニバーサルのコメントを読む
先月末、ユニバーサルとTiktokの楽曲利用の契約の更新について、2024年1月31日までに合意を達成することができず、同社のカタログ楽曲を取り下げる旨のニュースがありました。
ユニバーサルからは、"An Open Letter to the Artist and Songwriter Community Why We Must Call Time Out on TikTok" としてOpen Letterが出されています。英語のOpen Letterはこちら、ユニバーサルミュージックジャパンから出されている日本語訳はこちらです。
このオープンレータでは、契約更新時に重要な課題となったポイントを3点挙げています。
つまり、①Appropriate compensation for our artists and songwriters (アーティストとソングライターの適正な報酬)、②protecting human artists from the harmful effects of AI (AIの有害な影響から人間のアーティストを守ること)、③online safety for TikTok user's (TikTokユーザーのオンラインにおける安全性)の3点を挙げています。
このうち、割いている文章量からすると、一番大きい理由は①ロイヤルティの支払の内容に合意できなかった点にあろうかと思います。
ここで、ユニバーサルは、「Artist-Centric Initiative」というモデルを用いて、ストリーミングの報酬モデルをアップデートしてきたが、TikTokの提案は、他の大手ストリーミングサービスのほんの一部(a fraction of the rate)を支払う提案であった、これがいかに少ない対価を示す事実として、ユニバーサルミュージックの総収入(total revenue)の1%にしかすぎない提案であるとしています。
このうち、ユニバーサルが提案「Artistic-Centric Initiative」とはどのような提案なのでしょうか。
2023年9月のユニバーサルの発表によれば、同モデルは、ユニバーサルと独立系音楽ストリーミングサービスのdezzer社が共同で開発したモデルとのことです。これは、最低500人のユニークリスナーから1000回以上ストリームされると、「プロフェッショナルアーティスト」に該当し、2倍のブーストが与えられるとされています(dizzerにおいては、1000人以上のユニークリスナーを獲得しているのはアップロードした人の2%だけであるとされています)。ファンが積極的にエンゲージした楽曲には追加で2倍のブーストが与えられるとのことです。
ユニバーサルの今回のTikTokの発表でも、「In the months since its inception, we’re proud that this initiative has been received so positively and taken up by a range of partners, including the largest music platform in the world.」とされているので、dezzer社以外にも、大手音楽プラットフォーム企業を含む、多くの企業で取り入れられているようです。
ユニバーサルは、上記3点の主張をした上で、TikTokの交渉について、以下の通り述べています。
ユニバーサルは、TikTokの交渉方法を、「Intimidation」(脅し)、「bully」(いじめ・威圧)、「hurt」(傷つける)という言葉を用い、かつ「worth less than the previous deal, far less than fair market value and not reflective of their exponential growth」(「以前の取引よりも価値の低い、市場価値に見合わない、そして彼らの急速な成長を反映しない取引」)については下線までつけての強調を行なっています。どのような提案をTiktokが行ったかに関しては、「キャリア構築中のアーティストの音楽を削除し、視聴者を惹きつける世界的スターの楽曲だけを維持する」ものとしています。その上で、このような提案は、プラットフォームの力を利用して弱いアーティストを傷つけ、音楽アーティスト・ソングライターやファンを不当に扱うものとしています。
現在、TikTokがアーティストのファンエンゲージメントにとって重要なプラットフォームであることは度外視できない事実だと考えられます。そして、上記のユニバーサルの記載からは、TikTokが、有名アーティストの楽曲だけを残し、それ以外は不要、と主張して、ロイヤルティを下げるような交渉をおこなっていたとしたならば、ユニバーサルとしても受け入れ難いと考えたところかもしれません(こちらはあくまでも推測です)。
ユニバーサルのTikTok引き上げにより、テイラースイフトをはじめ、多くのユーザーがユニバーサルの音楽を利用できなくなり、少なからずの衝撃が走りました。おそらく、TikTok側にも言い分はあるのだとは思われますが、ユニバーサルとしては、上記のように、強い非難をTikTokに対してOpen Letterで主張しなければならないほど、TikTokに対して強い反発心をユニバーサルが持ち、その理由を楽曲のファンにOpen Letterとして公開したかった、ということなのだと思います。
なお、本件とは直接関係ありませんが、最近、PWCの「新しい音楽消費の方法と、音楽著作権評価への影響」というレポートに接しました。ユニバーサルの今後の対応を含め、音楽業界とプラットフォームの関係や動きについては今後も注目していきたいと思います。
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