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エッシャー通りの赤いポストを観て


 もう、かれこれ3か月の時間が経っているのか!!とその事実に今ようやく驚いているが、今年9月水道橋博士が総合プロデューサーを務めるアサヤンに園子温監督に登壇していただいた。

 アサヤンのライブでは公開オーディションも開催された。もちろん、その布石には、今日、観てきたばかりの「エッシャー通りの赤いポスト」において、園子温監督が決して名の知れた俳優ばかりをキャストするわけではない、という事実が存在した上での企画であり、それは一方でドリームを感じさせる出来事でもある。アサヤンの時点で、エキストラの帝王と呼ばれる増井さんの存在も知っていたし、エキストラにスポットを当てた映画である、という事前情報だけは知っていた。

 で、いざ、どんなものなのかと期待を抱き、渋谷のユールスペースへ。場所はラボホテル街のど真ん中の円山町だ。園子温監督にふさわしい場所じゃないか!!

 さて、ここからは多少のネタばれがあるので見てない方は、そっとフェードアウトしてもらった方がいいかもしれない。 

 結論から言うと、園子温流の爆笑コメディー映画であった。しかし、単なるコメディー映画ではない。虚実入り混じるのだ。先ほど、記したエキストラの帝王エピソードはまさに、事実であるだろうし、オーディションにおける演技テストなどはリアルそのものだろう。

 一方で、おっぱいのチラ見やら、工事現場のシーンやら、藤田朋子さん演じる家族のシーンなど、そうそうそんなやついるか?と首を傾げるが、ひょっとしたらこんな人もいるのかも?のさじ加減が絶妙だ。特に、小林正監督の追っかけ組にも爆笑した。それはどこか、のど自慢のようでもあった。地方にやってきたNHKの全国放送。突如、訪れた地元の祭り。エキストラではなく、ひとりとしてスポットの当たる瞬間。前半は特にそんな印象の展開であった。それゆえに冒頭、エキストラの歩くシーンでは記号として人しか認識出来ないが、映画が進むにつれ、感情移入し、役者の顔が認識されていく。

 これは、園子温監督の挑戦にも見える。
 「映画は役者の知名度なんか、なくてもいい映画は作れる!」
 「役者の顔は、進行すればも人格を持ち、感情移入し始める!」
 「映画人としてのデビュー当時の気持ちで今の力量で撮ったらどうなるのか!!!」そんな実験と気迫すら感じさせる内容である。

 映画を観終わった今、カメラマンの篠山紀信さんを思い出した。もう、かれこれ20数年前だが、「シノヤマキシン」名義での写真集を出していた。名も知らない一人の女性をモデルにした写真集だった。見事なまでにエロかった、と書いておこう。言いたいことは、キャリアを積んだ時に一回、原点に立ち返る、あるいはモデル(園子温監督の場合は役者)の知名度に頼らないことを試したかったのではないか。

 後半の展開は、積み上げてきたリアリティーさに裏打ちしたかのような破壊的な展開に。これはもう映画でありながらロックンロールのような展開だ。とにかく爆笑したが、心なしか僕の周りでは笑ってなかったような。。。なんなんだろうか?おかしくてしょうがなかった。あまり内容も書くのもどうかと思うが監督が最後、走り出すシーンからの現場に戻るまで。
ラストシーンの渋谷のスクランブル交差点はあれはガチのシーンだろう。で、警官は役者であろう。この虚実入り混じるからこそ、笑いももたらす。三谷幸喜監督の狙いすましたコメディーとは一味も二味も違うコメディーだ。社会への毒が盛られたコメディーというべきか。もう、一度、噛みしめたい映画であった。

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執筆者:島津秀泰(放送作家)
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