においがわからない、、というときに。最新の治療:嗅覚刺激療法とは?

においがわからない、という話。

いまは新型コロナの件で話題ですが、、。

実は普段から耳鼻咽喉科ではこういう患者さんがよく来院されます。

においがわからない、というのは実はかなり困る

動物だとほかの感覚(視力など)が弱いことも多いために、においをかぐ能力が発達しているという話は聞いたことがあるのではないでしょうか。

実は人間でもにおいをかぐということは、「身を守るため」にも「人間らしい生活を楽しむ」ためにも大切なのです。

たとえば

「ガス漏れがわからなかった」

「腐ったものを食べてしまった」

などということは実際に患者さんから訴えがあることです。

もちろん、食べ物などのにおいがわかりにくくなりますし、

それによって味もわからなくなってしまいます。(医学的には風味障害といいます。)

また、においがわからない、ということの辛さはなかなか他の人にはわかってもらいにくいということもあります。

では、どんな原因でにおいはわからなくなるのでしょうか?

原因を知るためにはまずはどのようににおいがわかるのか?ということから説明します。

においは鼻に匂いのついた空気が入ってきて、それが嗅上皮というにおいを感じる部分(センサーのような部分)に到達して、そこから嗅神経を介して脳に届きます。そのどの部分が障害されてもにおいはわからなくなります。

医学的にはにおいがそもそもセンサーに届かない、センサーや神経自体がダメになっている、脳の問題(医学的には嗅球~大脳の障害)、のいずれかに分類されます。(1)

そもそもセンサーに届かないケース、これは慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などいわゆる鼻の病気で生じるケースですね。これは気導性嗅覚障害といわれますが、比較的治りやすいといえます。

二番目のセンサーや神経自体がダメになっているケース(嗅神経性嗅覚障害)は、風邪の後や薬などが原因になっているケースですね。臨床の現場では風邪のあとの嗅覚障害(感冒後嗅覚障害)というのは比較的多いことが知られています。

三番目の脳の問題(中枢性嗅覚障害)としては頭部外傷、脳腫瘍、パーキンソン病などが原因のケースですね。(頭部外傷は二番目の要素もあるといわれています)

では、においに関する検査ってどんなものでしょうか?

においというのは自覚的なものですから、病院でも検査としては実際ににおっていただくことが必要になります。具体的には①基準嗅力検査というにおいを付けたろ紙をにおっていただく検査、②静脈性嗅覚検査というアリナミンを注射したときのにおいを確認する検査、などを受けていただいてにおいがどの程度障害されているか判断します。

あるいは、自覚的なにおいの低下の程度についてアンケートなどを行うこともあります。

もちろん鼻の病気で嗅覚障害になっているのならその治療を行います。

じつは、最近注目されているのはセンサーや神経による嗅覚障害(嗅神経性嗅覚障害)に対する「嗅覚刺激療法」です。(2)

「嗅覚刺激療法」ってなんでしょう?

嗅覚刺激療法というのは、リハビリテーションの一種です。

ヨーロッパから広がってきました。

簡単にいうと様々なにおいを例えば一日2回程度嗅いでいただきます。

すると、においの刺激が入ります。

ヨーロッパからはかなり期待できるデータが出ています。

日本でも今後進んでくるのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの嗅覚障害の最新情報

最後に、新型コロナウイルス(COVID-19)の嗅覚障害についての報告です。

ヨーロッパから、12の病院、417人の軽症~中等症のCOVID-19の患者さんについての調査が報告されています。

結果、79.7%の方が嗅覚障害が出ていたということが報告されています。

しかも、11.8%の方は他の症状が出る前に嗅覚障害が出ていたとのこと。

さらに、嗅覚障害が早期に回復した方は44%であったこと、嗅覚障害は女性に多かったことが報告されています。

おおざっぱに8割程度の方が経過中のどこかで嗅覚障害が出るということで、これは通常の感冒後嗅覚障害と比べてかなり多い割合であると感じます。

また、においがわからないという症状が「風邪症状に先行する」というのもかなり特殊なので、COVID-19における特殊な性質といってもいいのかもしれません。(3)


(1)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/123/2/123_163/_pdf/-char/ja

(2)Hummel T, Rissom K, Reden J, et al : Effects of olfactory training in patients with olfactory loss. Laryngoscope 2009 ; 119 :496―499

(3)Lechien JR et al:Olfactory and gustatory dysfunctions as a clinical presentation of mild-to-moderate forms of the coronavirus disease (COVID-19): a multicenter European study. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020 Apr 6.

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