中咽頭癌とHPV(ヒト乳頭腫ウイルス)について

ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は子宮頸癌の原因ウイルスです。感染を予防できるワクチン(HPVワクチン=子宮頸がんワクチン)があることでも有名です。
HPVは中咽頭癌を起こすこともあります。アメリカではHPV関連の癌で新規発生が最も多いのが中咽頭癌で、二番目が子宮頸癌となっています。(1)

中咽頭、というとどこなの?という感じもすると思いますが、口蓋扁桃(いわゆる「扁桃腺」)、咽頭後壁、舌根部、軟口蓋などを指しています。(2)

HPVは他にも性器癌、肛門癌などを起こします。

中咽頭癌の症状としては長く続くのどの痛み、耳の痛み、飲み込む時の痛み、声がれ、首のリンパ節の腫れ、などです。症状のあまりない方もいます。首のリンパ節が腫れるのは癌がリンパ節に転移するからですね。心配なら耳鼻咽喉科で相談してください。

治療としては手術、放射線、抗がん剤などになります。中咽頭を含む「のど」は人間が生きていくうえで重要な部位です。たとえば飲み込みなど。ですから癌の治療を行いつつ、その治療による副作用をできるだけ抑えるということが重要になります。
なお、中咽頭癌はHPVが関連しているものとしていないものがあります。中咽頭癌全体のうちで、HPV関連のものはアメリカで70%ぐらいです。日米ともHPV関連のものは増加傾向と言われてます。HPVと関連しているものの方が治療反応性が良いことが知られています。理由は不明です。

ちなみに、HPVワクチンによって、中咽頭癌が理論的にはかなり予防できる可能性が高いと考えられています。アメリカでは男女ともHPVワクチンの接種が推奨されていますが、その理由の一つでもあります。

日本では2010年にHPVワクチン接種が開始されてから、当初は3回投与の接種率が70%を超えたものの、2013年6月の政府による積極的な接種勧奨の差し控え以来、接種率は非常に低くなっており、現在は1%未満とされています。一方、アメリカではCDCがHPVの安全性と効果をはっきりと宣言しており、一人の耳鼻咽喉科医としても接種率の向上に期待したいと考えています。(3)

(1)https://www.cdc.gov/cancer/hpv/statistics/cases.htm

(2)https://www.cdc.gov/cancer/hpv/basic_info/hpv_oropharyngeal.htm

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?