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「長く大切に使い続けられるソファ」ができるまで

前回、ソファの製作風景を動画にまとめてみましたが、今回はあらためて「journey sofa」の誕生までを追っていきたいと思います。

初めてのオリジナルソファ開発

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こちらがenstolの家具デザイナーであり家具職人でもある岡野裕一(以下オカノ)。
学生時代、美大で洋画を専攻していたオカノは、長時間椅子に座って絵を描くうちに座り心地の良い椅子を探し求めるようになり、気付けば自宅は北欧の名作椅子だらけに。
北欧家具のデザインや構造を知り尽くしたオカノがデザインする家具は、どれも美しくシンプルで機能的です。

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当初、ソファの製造販売をしていなかったenstol。
そんな中、お客様から「ソファは無いのですか?」と尋ねられることが増えてきました。
スタートして間もない小さな家具店であるにも関わらず、「enstolのソファが欲しい」と言ってくださるお客様の声はとても嬉しく、励みになりました。
お客様の声に応えたい、暮らしを豊かにできるようなソファをつくりたい。みんなの想いは一致し、enstol初のオリジナルソファを開発することが決まりました。

enstolらしいソファとは?

これまでオリジナルのチェアやテーブルのほか、オーダー家具のデザインも担ってきたオカノですが、ソファをイチからデザインするのは初めて。
サイズ展開は1P、2P、2P wideの3種類とオットマンに決まりました。

ソファのコンセプトは、他のオリジナル家具のコンセプト「長く大切に使い続けられるもの」と同じく、
・愛用したくなるようなデザイン
・修理しやすい構造
・上質な素材と仕上げ

であることが大前提です。

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加えて、見た目の美しさはもちろんのこと、enstolの小さな工場で、職人たちの手できちんとつくれるものであることも重要です。
それらの条件を満たすソファとはどんなソファなのか。
オカノは木工職人アキバ、椅子張り職人キムラ、塗装職人タダの3人の家具職人と何度も相談を重ねながらデザイン制作を進めました。

・愛用したくなるようなデザイン

まずは、オカノが「かっこいい」と思うソファを描きました。

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一番にデザインしたのは肘掛けのパーツ。オリジナルチェアの背板用に曲げ加工を施したものの、少し反りが戻ってしまった無垢のチェリー材を眺めているうちに、肘掛けのイメージが思い浮かびました。
その肘掛けにあわせるように、全体のデザインを描いていきました。
すっきりとしたラインのフレーム、彫刻作品のような肘掛け、どの角度から見ても絵になるフォルム。
シンプルながらも心惹かれる繊細な美しさがあり、流行に左右されることなく長く愛用いただけるソファを目指しました。

・修理しやすい構造

長く使い続けるには、丈夫なことはさることながら、修理ができ、かつ修理しやすい構造であることが重要。日々たくさんの家具を修理しているenstolの職人たちはこれらを熟知しています。
そこで、enstolのオリジナルソファの構造は以下のように決まりました。

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・フレームとクッションの修理が個々でできるよう「木製フレーム+置き型クッション」に。
・クッションが汚れたらクリーニングできるよう、またクッションがへたった際に中身のウレタンを容易に交換できるう、取り外し可能なカバーリング仕様に。
・バネが伸びたり切れたりしても簡単に交換できるよう、ワイヤースプリング仕様に。
・フレームの表面に汚れや小傷がついてもご自身でメンテナンスができるよう、無垢材・オイル仕上げに。

・上質な素材と仕上げ

enstolのほとんどのオリジナル家具と同じく、フレームには無垢材を使用し、オイル仕上げを採用。職人が丁寧に磨き上げることで、すべすべと気持ちのよい手ざわりになります。
クッションはふわっとやわらかながらもへたりにくい座り心地を実現するため、固さや粘りの異なる複数のウレタンを組み合わせることにしました。
クッションのカバー生地は、オリジナルチェアの張り生地同様、ご希望の色柄・素材・機能などにあわせて5ランク計290種類のファブリックorレザーからお選びいただけるようにしました。

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そして、enstol初のオリジナルソファは「journey sofa」と名付け、2種類の樹種を使ったオリジナル家具「journey」シリーズの一員となりました。

職人の手で、デザイン画をかたちに

線で描いたデザイン画をもとに、いよいよ実際のソファをつくっていきます。

まずは木工部門のフレーム製作。
こちらは木工職人アキバが作業にあたります。
オカノは木工と塗装の職人でもあり、あらかじめフレーム製作の工程を想定しながらデザインしているため、こちらは大きな問題なく進みます。

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木取り、背座部分の組み立て、各部材の加工、全体の組み立て、アーム取り付け、アーム加工・・・
パーツの数も工程も多く、きちんと組み上げるために緻密な作業の連続となる木工。

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なかでも特徴的な肘掛け部分の製作作業は、職人の技術とセンスが問われる工程。
オカノが試作した見本のパーツをもとに、その姿になるまで手と目を頼りにしながら、絶妙なフォルムに削り上げていきます。
想像以上に体全体を使うため、冬の寒い工場でも上着がいらなくなるほどです。

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左:削る前 右:削った後

木工部門でのフレーム製作と並行して、椅子張り職人キムラがクッション製作を進めます。
オカノがイメージするクッションの「見た目」と「座り心地」を再現するため、こちらは難航しました。
クッションの見た目は"角ばり過ぎず、丸くなり過ぎず、すっきりと"。
座り心地は"ふわっとやわらかながらも、へたりにくく"。

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ワイヤースプリング との相性を考えながら、ウレタンの硬さや組み合わせを変えたり、形状を変えたり、貼り方を変えたり・・・何度も試作を重ねながら、長い時間をかけてようやく求めているクッションにたどり着きました。

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またクッションカバーが柄入りの生地の場合は、柄がきれいに繋がるよう調整する必要もあります。

フレームの組み立て後、仕上げを担当するのは塗装職人タダ。
無垢材のすべすべとした心地よい手ざわりを決める最後の工程です。

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フレームを手で何度も撫でながら、サンダーのあて具合を探っていく作業。ほんのわずかな引っかかりやざらつきをてのひらで感じ取り、全てがすべすべになるまで根気よくペーパーを当てます。
その後オイルワックスを塗布し、つややかに磨き上げます。

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最後に、オリジナルで製作しているワイヤースプリング をフレームに取り付けます。

完成、そして今

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こうしてようやく完成したjourney sofa。
美しい曲線の肘掛け、背面に整然と並ぶワイヤースプリング、ビーチ×チェリー無垢材の組み合わせ、スレンダーなフレームのライン。
工場で少しずつ出来上がっていくソファを見ていた全員が、完成した姿を目にし、思わず息をのんだほどでした。
とはいえ、果たしてこのソファがお客様に受け入れられるのか。
自信を持って製作したものの、完成当初はやはり不安もありました。

それから数ヶ月。ソファは、ご来店くださり実際に座って購入されるお客様のほか、コロナ禍ということもあり、遠方からオンラインショップ経由で実物を見ることなく購入されるお客様もいらっしゃるほどの商品にまで成長。
丹精込めてつくったソファを送り出し、後日お客様からお受け取りのメールをいただくと、一同ほっと胸をなでおろすとともに嬉しい気持ちでいっぱいになります。

ソファをご購入のお客様よりいただいたメール

ソファ無事届きました。
座り心地もとても良く、木もすべすべでいつまでも触っていたい気持ちです。
この先何十年も一緒だと思うので、大切にしたいです。
家での時間が一層楽しみになりました。
製作の方々にもありがとうございますとお伝え下さい。

enstolのオリジナルソファ「journey sofa」ができるまで。長くなりましたがお付き合いいただきありがとうございました!いかがでしたでしょうか?

椅子張り職人キムラからは、「フレームを作っている工程をじっくり追って見たことがなかったので、すごく手がかかってるなぁと実感しました!」との感想をもらいました。たしかに、職人同士は連携して製作作業を行いますが、お互いの仕事をずっと見ているわけではないので、新鮮だったようです。

オリジナル家具製作にオーダー家具製作、家具修理やリメイクが同時進行で行われているenstolの工場。ひとつの家具が出来上がる過程をすべて記録することはなかなか難しいのですが、今後もできる限りご紹介できればと思います。

「journey sofa」のページはこちら
https://enstol.co.jp/service/product/other/journey-sofa/

enstol(エンストル)のwebサイト
https://enstol.co.jp

enstol(エンストル)のinstagram
https://www.instagram.com/enstol_kyoto/


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