転居17

 いつのまにか町じゅうに紫陽花が咲いてそれはまるで眠りから目が覚めるような心地だった。死にたくないと思ったところで毎日意識は途切れ気が付けば始まっている、意識が途切れる最後どのような体勢だったかまったく思い出せない、目が覚めたそのとき最初に何を見たのかも思い出せない、紫陽花はそのように各地に咲いた、そのときのことを問うことはできなかった、みな出鱈目のことを言う、おまえの夢の話をしているのではない、目の前に咲いているこの紫陽花の話をしている、蛙だってそこに乗っている、蛙を支えるのに十分な強度のあるものの話をしている、出鱈目なことを言うな、おまえも見たはずだ、濡れていたことを知っている、他の誰かの記憶ではないはずなのにJ-popのボサノヴァ・アレンジが聞こえる、才気の光るものは痛く恐ろしく眩しく疲れる、ビニール包装の気楽なパンを買うしかない、あまりに疲れていた、暗い部屋で気が付けば見はじめ、すでに疲れ、何度でも目を閉じることができるように感じた、それは違っていた。

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