転居15

 学者に対面してなんとなく一突きで崩れ落ちそうなしかしなにかぬめぬめとして全体的にはやはり土くれのように坐している、それに硝子の巨大な重箱が覆いかぶさっているのかもしれない、大きすぎるために実態はよくわからないしかしその硝子の向こう側に傘を差した人間のようなものが横切っていくのに学者ともう一つのその体は傘を差していないのに皮膚は濡れて見えないからこの硝子は箱型であると考えるのが妥当だ、視覚的に見えることはなく聞こえることもなく実体のないように思われる部分もこの国では大抵作り込んであり四角く作動することが多い、アルは十四年ほど前までトイレにあるハンドドライヤーの音に緊張したから今日自分が使うにあたって当時の自分と同じくらいの年齢の人間がトイレにいるときにハンドドライヤーを使うことを少し躊躇いはしたが距離があるから大丈夫だろうとなんとなく合点をいかせて自己都合で機械に手を突っ込んでいた、手が濡れていることが気になるからハンドドライヤーは一種の魔法のようなものだった、そんなことがあっていいものかと思いながら別に無くてもよかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?