転居10

 敬語で話していると折り紙の白をなにかしらの規則に従って折り目を付けていくようにせらせら文字の音が出ていって舌触りが癖になって質問や応答の範囲からはぐれてひとりでに喋り続けてしまいそうになって、強く均衡を保つことにする。敬語の音を聞きながら頷いているときもそうだ、音を意味としてイメージに置き換えたりしながら再構成している担当は監視の目が緩まる隙に悠長に職場を抜け出していつの間にか生成りのTシャツとパンツで小さな温水プールに手足を大きく広げ浮かんでいる。敬語を口から出すにも耳から入れるにもそのようなことが起こってしまうようでは、迅速さがものをいうやりとりには向かないかもしれない。アルは食べ物を探してふらふらと彷徨った。身動きができなくて怒りが込み上げた日は詩を書いた。

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