転居11

 新しい家が左に追加されていく空き地の横を通る、アルがこの町に来る前にすでに壊されていた建造物、壊したことで開けた土の地面をもう一度コンクリートで固めてその上に細長く白く四角い家が左に追加されていく、家は随分前からあったのであろう歩道からその歩道と同じ幅くらいのレンガ風のタイルの新しそうな道を挟んで建っていてそこだけ道が広くなるから人はなんとなく縦に引き締めていた体を少しだけ緩める。今日の土は昨日の雨のために湿っており、また、波打つように斑に苔むして、その苔の深い緑色と混然一体となっている、あの色合いにこんな説明では十分ではないだろう、いくらか草だって生えていた、あんなに生き生きとして艶めいた色合いをどのようにして説明できるというのか、おそらく説明では十分ではない、できるだけ忠実に伝えようとするのならば、歌が必要であるはずだ、人間は歌を必要とし、歌は人間を必要とした、歌は何者かに歌われることによって歌い継がれた、歌い継がれた歌は何者かが存在していることを明らかにしていた、家は定期的に左に追加され、やがて地球に輪を造った。

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