転居6

 スターバックスのケーキやドーナツはケーキやドーナツ自身に対する軽口を寄せ付けない閉じた顔をして、規定通りの味を規定通りに受け取るように強制する迫力がある。そういった力強さを、感じるために訪れることができる。利用するトイレは、ビルのトイレで、二つ個室があり洗面器も二つある、手を洗うときに、二つの洗面台の間の白いガラスの台の上に、二つの黒点があり、一つは何らかの植物の枯れた蕾のようなもので、もう一つはいままさに息の途絶えそうな小蝿だった。二方向に広がる羽を一粒の雫に捉えられて六本の脚を最大の可動域でばたつかせる。アルはその側面に付いているハンドドライヤーに両手を挿し込み、少し顔を近づけて、そのあと二本の脚を動かして巨大に歩き去った。米の水を切るとき、掌を内窯の縁に当てて傾けていくと、ある地点で突然米が固まって手に落ちる、瞬間ひとりでに心臓が硬くなる、シンクに米が散らばっても拾うことができる、そういった事情に関係なく、体は反射する。硬くなり、また柔らかくなる肉を生きている。塩麹や、赤ワインに漬けるといった、技術を編み出す人もいる。

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