転居12

 アルは蝿が飛び交っていた星のようだった日の話を聴いてその光景を日に何度も自動的に描いては忘れることを繰り返していたらその十回目くらいにひと昔前に書かれたラテンアメリカ小説のなかで流れ星の降り続く夜空を見上げて、こんな夜には静かに闇を眺めたかったのに、というようなことを独りごちていた登場人物のことを思った、メキシコの猛烈に冷えて乾いた砂を呑み込もうとするようにぱっくりと開いた夜の空には流れ星が好んで降り注いだ、その境界にいつもかろうじて立っていた男は、流れ星など短い人生のその途中でとっくに見飽きていた、アルは闇が薄く星の少ない夜の空を毎日見ていた、アルは男がうんざりした日のような、輝きに満ちた夜の空を一度でいいから見てみたいと思っている、たしかに一度でいいと思っている、果たしてこの薄い闇があればあの夜のあの男を慰めることはできたのだろうか、こんなはりぼての空、とでも言い放っただろうか。

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