転居7

 スクランブルエッグのような花が大量に咲く木の間にベルベットのピアノカヴァーのようなバラが二つ頭を出しているこの植え込みは人の庭で狭い土にスクランブルエッグの木を植えてバラを植えたとき記号的に花が咲くことを想像していたが実際ここまで育つということはすべての細部は常にすでに作られている。アルは一日小説を読んでそのあと家の外に出ると細部まで完璧に作り込みがありすべての隙間が埋められてなんと生々しいことかと驚いている。アルの想像力ではここまでの光景を作り込むことができない、それは、現実というものがほとんど無限に豊かであるということを示していた。ちょうど聴いていた音楽の、わたしに逢えばわかります、という歌の、あーえばとフォールする部分によく似たピンクのお椀のような花が、道の左脇に二輪で咲いている。誰もこんな風に育つとは想像しなかった。

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