王平伝 8-11

 列を成した五万の兵が、五丈原から退いていく。戦場に運び込まれた兵糧も、空しく漢中へと送り返され始めていた。

 どのような取引があったのか知らないが、魏軍の追撃はないのだという。諸葛亮一人が死ぬことで魏と蜀が戦う理由はなくなったのだと、楊儀から簡単な説明があっただけだ。諸葛亮を悪者にすることで蜀軍の戦意を失わせしめようという司馬懿の謀略が効いているのだ。

 五丈原から眺めると、武功水の東岸で蜀軍を見送るようにして魏軍が並んでいる。それはいつでもこちらに側に攻め入ることができる構えでもあったが、戦意は感じられない。

「異常はないか、王平」

 周囲に二十騎を従えて陣を見廻る楊儀が、王平を見つけて声をかけてきた。大仰な護衛だった。諸葛亮が死んでから、楊儀が当たり前のように蜀軍の差配をし始めていた。

「まだ構えていますが、戦意はありません。もう戦うことは無益であると司馬懿は思っているはずです」

「はずです、ではだめだ。戦は最後まで何があるかわからんからな。油断せずに見張りを続けてくれ」

 そう言って楊儀は離れて行った。

 嫌なもの言いだったが、それは腹に押し込めた。何かが起こるとは思わないが、自分がここで見張りを続けることによって、楊儀の心は安心するのだろう。魏軍の動きに対応するためでなく、楊儀から不安を消してやるための見張りだと割り切っておけばいい。臆病な男なのだ。

 近くで杜棋が仏頂面をして魏軍を見つめていた。楊儀の方を見ないようにしていたのかもしれない。その杜棋の横腹を、王平は小突いた。

「なんですか」

「そんな顔をするな。気持ちはわからんでもないが」

「こんな見張りに、意味はないと思います。そんなに魏軍の追撃が恐いのなら、魏延殿を大将にして差配をしてもらえばいいのです。それに王平殿が副将になれば、間違いはありません」

「もう交戦はない。撤退戦なのだ。いや、ただの行軍だと思ってもいい。ならば軍の差配は物資を管理している楊儀殿の方が良い」

「魏延殿の下でもそれはできると思います。こう思っている軍人は、自分だけではないでしょう」

「杜棋、それ以上言うことを禁ずる」

 王平が睨みつけ、杜棋がしぶしぶ頭を下げた。

 兵糧隊が先行し、それに楊儀の本隊三万が続き、その後ろに王平と魏延の漢中軍が殿軍として続くべしという楊儀の伝令が届いた。武功水の東岸に布陣していた魏軍も、追撃はしないという意思を伝えているつもりなのか、陣を半里程退いていた。撤退戦における殿軍は一番危険だが、心配することはないようだ。

 問題は、蜀軍内にあった。諸葛亮の強い統率力が失われ、人間関係に不協和が生じ始めていた。蜀軍が崇めていた漢の帝が死んだということも、それを助長していた。

「大変です、王平殿。ちょっと来て下さい」

 撤退の準備に兵をまとめていると、本営に行っていた劉敏が呼びにきた。聞くと、楊儀と魏延が言い争いをしているのだという。

 行くと魏延が何かを叫んでいて、楊儀はそれに素知らぬ顔をして無視していた。いつもなら費禕が止めに入っているところだが、費禕は黒蜘蛛に襲われて怪我を負い、先行した兵糧隊と共に護送されていた。

 言い募る魏延が王平を見つけると、楊儀に見切りをつけたのかこちらに歩み寄ってきた。

「お前は魏軍を見てどう思う、王平」

「陣を退いていますし、もう攻めてくることはないと思います。殿軍でも特に仕事は無いかと」

「俺は殿軍の心配をしているのではない。戦はもうないと司馬懿が思っている今こそ攻め時ではないか。丞相一人が死んだから戦を止めるなどと、どういう理屈で言っているのか理解できん。今こそ千載一遇の好機ではないか」

 楊儀は撤退すると言い、魏延は攻めろと主張しているのだ。

 魏延の言っていることはわかる。蜀軍が兵糧を運び始めているのを見て、司馬懿はもう戦はないと判断していることだろう。だからこそ武功水沿いから魏軍が退き始めたのだ。この虚をつくのは、戦法として悪くない。兵力で劣っている蜀軍が、まさか兵を返して攻めてくるとは思いもしないだろう。

「司馬懿はこれまで一切の隙を見せてはこなかったが、ようやくそれを見せた。あの将軍が隙を見せるのは、こんな時を置いて他にないぞ。この時に攻めの号令を下せなくて、何が指揮官だ」

 間違いとは思えない。或いは魏延の言っていることは正しいのかもしれない。しかし楊儀が軍を掌握しているのだ。

「一軍を率いる者として、魏延殿の言っていることはわかります。しかし兵糧がなければ」

「そうだ。兵糧を抑えているから、楊儀はでかい顔をしていられる。だがそれは蜀国の利益ではなく、あいつ自身の利益でしかないのだ。今までの楊儀を見ていたお前には、それがわかるはずだ」

「わかります。しかし下手をすれば、蜀軍が二つに割れかねません。それだけは避けるべきです」

 魏延が顔を赤くさせていた。ここが司馬懿の虚を突ける勝負所だというのもあるが、楊儀に対する強い反感もあるからこそ、魏延はここまで激昂しているのだろう。

「お前も楊儀の肩を持つというのか。あれほどの愚昧であるというのに」

「そのような意味ではありません」

「お前に期待した俺が間違いだった。俺の一万だけではさすがに魏軍を打ち破れん。帰還する」

 吐き捨てるように言い、魏延は自陣に戻って行った。

 翌朝、殿軍を命じられたにも関わらず、魏延は手勢の一万を率いて漢中へと進軍を始めた。劉敏が伝えてくるには、魏軍はもう攻めてこないから殿軍の必要はないだろうと、魏延は勝手に移動し始めたのだという。

 好きにさせておけと王平は言ったが、楊儀が怒り狂っているのだと、劉敏が困った顔で言っていた。

「後方の魏軍のことも気にしていますが、先発させた兵糧隊を魏延殿に奪われたら大変だと慌てふためいています」

 兵糧を一手に担っているからこそ、楊儀は蜀軍内において発言力があった。魏延の先発が兵糧を狙ってのことかどうかは不明だが、その行動は楊儀の心に大きく作用し、誇大な被害妄想を生じさせているのだろう。

「魏延殿を討てという命令がくるかもしれません」

 劉敏から言われ、王平はうんざりした。

 ところが楊儀は王平に殿軍を任せたままで、自ら魏延を討つと言い始め、本隊の三万で魏延の一万を追い始めた。数で有利だと考えたのかもしれない。

 楊儀の三万が出発し、王平の一万も殿軍としてゆるゆると進んだ。一応、後方に斥候を放ってはいるが、魏軍に動く気配はない。

「王平殿はどちらに付くつもりですか」

「どちらもないのだ、杜棋。俺も、魏延殿も、楊儀殿も、同じ蜀軍だ」

「しかし実際に争いが始まれば」

「それはお前の心配することではない。それとも、俺が何も考えていないとでも思っているのか」

 杜棋はまだ何か言いたそうだったが、王平は手を振って追い払った。

 漢の帝が失われ、諸葛亮も死に、皆不安なのだろう。その不安が蜀軍を割こうとしている。人の考えはそれぞれ違い、放っておけばばらばらであり、同じでないからこそ絶えず不安に襲われているのが人間の本来の姿なのかもしれない。その四散しているものに、一つの共有できる大切なものを持たせてくれるのが、漢王朝というものだったのだろう。諸葛亮が必至に守ろうとしたものだったが、果たせなかった。そして蜀軍のこの有り様である。折角一つにまとまっていたものを、司馬懿が破壊したのだ。

 殿軍で進んでいると、劉敏が前方からの情報をしばしば届けてきた。三万で追いすがる楊儀を見た魏延は、その前進を止めるために道中の橋を落としたのだという。これで二人の決別は決定的なものになったと言っていい。

「魏軍の動きはどうなのかと、楊儀殿がしきりに気にしています。問題がないようなら、一度顔を見せに来いとも」

 王平はさすがに腹が立ってきた。自ら撒いた種を人に処理させようというのだろう。

「魏軍に問題はないが、まだ予断はできない。内輪揉めが魏軍に伝われば背後を突かれるかもしれないと伝えておけ」

 そんなに不安なら、もっと魏軍に怯えていればいい。それで王平軍が動かない口実ができる。

「わかりました。あえて言うこともないと思いますが、我らは静観しておくのがよろしいかと」

「わかっている。もし前に出る必要があれば、俺が一人で行って魏延殿を説得してくる。それも伝えておけ」

「御意。今はとにかく楊儀殿との連絡を絶やさないようにします。連絡を絶やすことでおかしな疑われ方をされたらたまりませんので」

 劉敏が駆け去って行った。

 橋を落とされたため道を大きく迂回し、山林を伐り開きながら進んだ。その間も劉敏が往復し、できるだけ楊儀との交信を続けるよう努めた。

 漢中が近づくにつれ、兵の顔に安堵の色が戻ってきた。しかし危惧していた通り、漢中の手前で魏延軍一万と楊儀の三万が対峙を始めたと、劉敏が伝えてきた。

 すぐに王平は楊儀に呼ばれた。ここまで来れば、もう魏軍の追撃の心配はない。

 楊儀の幕舎へと向かう際に見える兵の顔に、高い士気は無い。魏延軍も楊儀軍も同じ蜀軍で、兵の中には共に五丈原で竈を囲んだ者もいるだろう。これでは士気が上がるはずもない。

 訪いを入れ、幕舎に入った。

「考えを行ってみよ、王平」

 背を向けた楊儀がいきなり言ってきた。その態度は昔の馬謖を思い出させたが、もう慣れていて腹が立つこともない。

「蜀軍同士による殺し合いだけは防がなければなりません。私が一人で向こうに乗り込み、魏延殿と話をつけてきます」

「一人で行くだと、大丈夫なのか」

「恐れながら、対峙し合っているのは楊儀殿と魏延殿で、私は中立なのです。魏延殿が私を捕らえることに何の意味もありません」

 楊儀が色をなした。遠回しに、楊儀には加担しないと言ったのだ。いざ戦となれば、楊儀は陣頭指揮に関しては王平に頼らざるをえない。

「魏との戦が終わり、故郷を前にして兵は安堵しております。ここで魏延殿の兵と楊儀殿の兵に殺し合いをさせれば、蜀国はいよいよ民の心を失うでしょう」

「兵は戦うために存在しているのだ。反旗を翻す者がいれば戦うのが道理ではないか」

「戦は、最後の手段としてやるものです。話し合いで解決できるのならばそうすべきです。ましてや同じ蜀軍なのですぞ」

 楊儀が苛つき始めていた。この機になんとかして魏延を殺してやりたいと考えているが、どうも王平はそのように動いてはくれない。或いは、王平を行かせれば魏延に味方すると考えているのかもしれない。

「手勢の一万は置いていくのです。それで話し合い以外の何ができるとお考えですか。必要ならば、杜棋と劉敏をここに呼んで、私の一万を動けないようにしておけばいい」

「私がお前を疑っていると、そう言っているのか」

「内輪揉めの時は、誰もが疑われるものだと思います。楊儀殿のことを責めて言っているのではありません」

「私はお前のことを疑っていない。そんなことは言わないでくれ」

 楊儀の声が弱弱しいものになった。王平まで敵になるのが怖いのだろう。馬謖にしろ、この種の男の心底にあるものは、大儀のような高潔なものでなく、絶え間なく溢れる不安や怖れだ。それに打ち勝つことのできない者が、軍を用いて敵を討ち果たすことなどできるはずもない。

「では、魏延殿と話し合いをしてきます。楊儀殿は何も心配なさいますな」

「いや、待て」

 言って楊儀は顎に手を当てて考えた。

「少し待つ。魏延がもし話し合いを望んでいるのなら、向こう側から使者が来るはずだ。今はそれを待つ」

 此の期に及んでまだこんなことを言うのか。王平は呆れながらもそれを承知し、自陣へ戻った。

 すぐに杜棋がやってきた。

「そう不安そうな顔をするなと言っているのだ、杜棋。味方同士での殺し合いはやらん」

「兵が不安がっています。早く漢中に帰りたいとも」

「不安がっているのはお前だ。それが兵に伝わっているのだ。杜棋、そこに立て」

 王平は直立した杜棋の顔に拳を叩き込んだ。

「これ以上不安になることは許さん。不安は、己の心の中だけで噛み殺すのだ。それができなければ、お前も楊儀殿のようになってしまうぞ」

 杜棋は顔色を変え、大きく一つ返事をした。

 楊儀もこうやってぶん殴ってやりたいと、王平は思った。

 王平は劉敏と手分けして、戦はないと言って兵を慰めて廻った。しばらくして、杜棋もそれに加わってきた。

 王平軍の前方にいる楊儀の三万が、少し陣を動かした。魏延に対する陣の変更でなく、王平に対するものだと見えた。それも気を遣っているのか、ほとんど意味のない動かし方であり、正に楊儀の心中を映していた。兵力で勝っているから魏延からの使者を待とうと楊儀は考えたのだろうが、これなら兵力差が三倍であっても魏延が勝つだろう。魏延もそれはわかっているはずだが攻めてこないのは、王平軍の存在があるからなのか、それとも蜀軍同士で戦うべきでないと思っているからなのか。

 しかし魏延からの使者はなかった。楊儀の風下には立たないと、そう言っているのだ。

 両軍が動かず五日が過ぎ、楊儀が痺れを切らして王平に使者を頼んできた。王平はそれを快諾し、一人で馬に乗って魏延の陣へ向かった。

 魏延軍は特に王平を警戒することなく、出てきた馬岱に先導されて魏延の所まで通された。兵は精神的にかなり参っているように見えた。

「すまん、王平。手間をかけさせる」

 言った魏延の顔がこけていた。剛毅な男だが、五丈原を離れてから色々と思うところはあったのだろう。

「楊儀殿に戦をする気はありません。無論、私もです」

「わかっている。あの臆病者に戦はできん。俺が考えていることは、どうやってあの女々しい野郎を蜀から取り除くかということだ。さもなくば蜀は早々に滅ぶぞ」

「魏延殿がそこまで楊儀殿の存在に責任を感じることはない、と思います。費禕や蔣琬に任せられることもあるはずです」

「あの若造どもに何ができる。争って自分を犠牲にしてでも諌止しようという気概も持たず、万事を事なかれで済ませようとするのだろう。そして蜀という国はずるずるとおかしな方へと進んでいくのだ。漢という国は、そうして滅んでいった」

「楊儀殿は確かに臆病な男です。これは何とかすべきことです。しかし今はこの事態を収拾することを第一に考えるべきです」

「収拾はする。その覚悟も決めている。楊儀の陣営から王平が来るのを俺は待っていたのだ。

「覚悟ですと」

「俺は、もはや賊扱いだ。成都には楊儀からの早馬が飛んでいる。本隊から離れた時点で、俺は賊軍になったのだ。ただで済ませるわけにはいかん」

 魏延は腰の剣を引き抜き、自分の腹に刃を向けた。近くにいた馬岱が魏延に飛びつき羽交い絞めにした。刃は腹に少しだけ入っただけで、血が一筋流れただけだった。王平が魏延の手から剣を奪った。

「離せ、馬岱。男の死に場を奪おうというのか」

「死んではなりません。死ぬべきは、魏延殿ではないのです。どうか考え直しを」

「わかった。だから離せ」

 馬岱が魏延から離れ、きれいな布で魏延の傷を押さえた。

「酷い奴らだ、お前らは。このまま楊儀の前に引き出し、頭頂を剃って首を落とそうというのか」

 馬岱が首を振った。

「お逃げください、魏延殿。私が丞相の命令で魏延殿の副将となったのは、魏延殿が文官と争った時にそれを助けるためでした。ただの軍監だとしか思われていなかったでしょうが」

「俺を助けるだと」

「魏延殿の剛毅さは、国家にとって必要なものです。そしてその剛毅さが通じなくなり空しいものになった時、魏延殿は死に、蜀も死ぬのだと丞相は言われておりました」

「そうだ、国が死ぬ。俺はそれを忍びないと言っている。丞相はそれを理解されていたか」

「魏延殿のような方が殺されるようになった時が、国が亡びる時なのです。だから、蜀のためにも魏延殿は死んではなりません」

 馬岱が珍しく激昂していた。今までは、あまり表情を変えることのない諸葛亮に忠実な男という印象しかなかった。

「わかった。そこまで言うのなら、死なん。蜀のために死なん」

「山中にお隠れください。必要なものは私が届けます」

 王平が言った。

「山中に隠居か。しばらく戦はないだろうし、それもいいかもしれん。軍人としての俺の役目は終わったと思うべきなのだろうな」

「楊儀殿には、私が上手く言っておきます。首が必要であれば、顔の似た罪人を選んでその首を落とします」

「本当に必要なら言って来い。どうせ馬岱に拾われた命だ」

 魏延が満面の笑みを見せて言った。心労で窶れてはいたが、王平は昔の魏延を思い出して笑みを返した。

 魏延の陣で一泊し、馬岱と共に帰陣した。

「魏延殿に戦をする意思はなく、この対峙は解くということで納得してもらいました。しかし、一晩が明けると魏延殿の姿はありませんでした」

 そう言って報告すると、楊儀は見る見る顔を赤くして怒りだした。

「何故、その場で首を落とさなかった。武官なら、その程度の気は効かせられるはずじゃないか。あれは謀反者なのだぞ」

「同じ蜀軍なのです、楊儀殿。殺してしまえば、それこそ取り返しのつかないことになります。魏延殿もそれがわかっていて、ひっそりと姿を消したのでしょう」

「勝手なことを言うな。謀反者の肩を持つということは、謀反者になるということだぞ。お前らが謀反者に加担したということを成都に上奏してやろうか」

「そのようなことは」

「嫌ならすぐに魏延を追え。そしてここに首を持ってくるのだ。さもなくば、お前らも謀反者と見做す」

 王平と馬岱は仕方なく承知し、楊儀の幕舎を後にした。

「あの男は増々酷くなっているな」

 馬岱が辟易して言った。

「恐れているのです。魏延殿が生きていれば、いつ寝首を掻かれるか気が気でないのでしょう」

「そんな臆病さを、丞相は一度たりとも我々には見せなかったな」

 王平らは手筈通り、魏延に似た罪人の首を刎ね、楊儀の前に差し出した。楊儀は狂喜してその首を罵り、周囲の目も気にせず散々に蹴りつけていた。

 魏国の人間が楊儀のこの姿を見ればどう思うだろうかと、王平はふと考えた。自分が魏国の者ならば、蜀の人間はなんと酷くて野蛮なのだと思ったことだろう。しかしこの様な者は、魏にでもどこにでもいるはずだ。要はこの種の者がその国においてどう扱われているか、ということが重要なのだ。魏延が謀反者の烙印を押されてでも楊儀から離反したのは、人から後ろ指を差されることではあるが、あながち間違いだったとは言い切れない。

 魏との戦は終わったが、蜀国内での戦いは何らかの形であり続けるのだと、王平は楊儀の姿を見ながら感じていた。

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