見出し画像

DF200形の後継機関車を予想してみた

2021年2月17日の官報に、こんな記事が掲載された。

JR貨物がDF200形ディーゼル機関車の後継機を購入するにあたり、入札の前段階として車両メーカーに参考資料の提供を求める記事である。

DF200形の後継機導入計画について、具体的な情報が公開されたのは恐らく初めてのことである。

DF200形は試作機が1992年に登場してからそろそろ30年となり、JR世代機とはいえ後継の話が出ても確かにおかしくない時期となっていた。
JR世代の機関車は電子部品を多用することで国鉄世代の機関車より格段に性能が向上しているのだが、電子部品は世代交代が早いので、比較的短期間で交換部品の生産が終了してしまうのだ。
交換部品がなければメンテナンスができず、機関車を走らせることはできなくなる。

部品供給の問題は電気機関車でも同様であり、国鉄形機関車より前にEF200形が全廃された一因もこれである。

置き換え対象とみられる初期型のDF200形
(筆者撮影)

新しい機関車に必要な性能

官報に挙げられた要求性能のうち、主要なものを抜粋すると、以下のようになる。

①JR貨物が貨物列車を運行しているすべての線区を走行可能であること
②1300トンの牽引が可能であること
③最高運転速度は110km/hであること

この条件に沿って作られる新しい機関車はどんなものになるか、予想してみよう。

①JR貨物が貨物列車を運行しているすべての線区を走行可能であること

機関車がある線区を走行可能かを決める主な条件は、以下のとおりである。
・軌間
・車両限界
・重さ
・電化方式
・保安装置
このうち、軌間と車両限界はJR在来線なら基本的に同じであり、電化方式はディーゼル機関車であるから関係がなく、保安装置も設置に困難を要するものではない。

問題は重さである。

機関車の重さには2つの基準がある。

1つ目は「総重量」。
これはわかりやすい。

2つ目は「軸重」。
ディーゼル機関車の場合、「総重量」を車軸の数で割ったものがこれにあたる。
DF200形なら、総重量96トン、車軸数6なので、軸重は96÷6=16トンである。

実は、重さのうち「総重量」が問題になるのは、橋を渡るときなどに限られている。
そのため、機関車の重さについては「軸重」で比較されることが多い。

JR貨物が保有するJR世代の機関車で、最も「軸重」が小さいのは、14.7トンのDD200形である。
DD200形は、貨物列車が運行される路線の中で、最も重さの制限の厳しい支線区で運行されている。

したがって、新機関車の軸重も、14.7トンに設定される可能性があるだろう。

一方で、DF200形の後継なのだから、運用線区は同じとしてDF200形と同じ16トン程度になる可能性ももちろんある。

②1300トンの牽引が可能であること

1300トンとは、牽引する列車の総重量のことである。

コンテナを積んだ状態のコンテナ貨車なら、1両50トンであるので、26両に相当する。
石油を積んだ状態のタンク貨車なら、1両60トンであるので、21両に相当する。
2021年現在、1300トン列車は国内で運行されている貨物列車としては最大規模であり、その運行区間は東京ー福岡間に限られている。
DF200形の牽引する列車では、北海道地区のコンテナ貨物列車が最大1000トン、東海地区の石油貨物列車が最大1080トンである。

官報では、牽引速度については指定されていない。
もし貨物駅構内での貨車移動のように低速でもよいならば、DF200形の3分の1のエンジン出力しかないDD200形でも1300トンを牽引できるし、平坦な路線なら65km/h程度で1000トンを牽引できる。
DF200形でも、平坦な路線で65km/h程度でなら1300トン牽引が可能だろう。

一方で、
「2021年現在の1300トンのコンテナ貨物列車の最高速度である100km/hでの牽引が求められている」
とも解釈できる。

JR貨物で1300トンの高速貨物列車を1両で牽引したことのある機関車のうち、一番出力が低いのは、3390kwのEF210形・EF510形である。(ただし、EF210形は30分以内に限り3540kwまで出せる)
新機関車に100km/hでの牽引を求めるなら、このくらいの出力が必要とされているといえるだろう。

③最高運転速度は110km/hであること

これについては、DF200形でも達成されているので、それほど困難はないであろう。

搭載エンジンの候補

以上の考察をもとに、新機関車の要目についてAとBの2つの案を考えた。
AはDF200形に近い性能とした場合、Bは官報の文章から要求性能を高めに見積った場合である。

新機関車A
軸重 16.8トン程度
出力 2800kw/3800馬力程度

新機関車B
軸重 14.7トン程度
出力 3400kw/4500馬力程度



Aの場合は、DF200形を改良することで開発でき、外観もDF200形と大差ないものになるだろう。形式は「DF210形」だろうか。

一方、Bの場合はそうはいかないだろう。
国鉄・JRのディーゼル機関車としては例を見ない大馬力機となるためである。
DF200形と同様、新機関車Bでもエンジンを2基搭載するとすれば、1エンジンにつき1700kw/2250馬力の駆動力を発揮する必要がある。

DF200形の1800馬力エンジンはコマツ製であるから、まずはコマツ製エンジンに適切なものがあるか探してみよう。
DF200形搭載エンジンの一つ上のクラスのエンジンを探してみると、SSDA16V160というエンジンが見つかった。
これは海外の鉱山で使われる超巨大ダンプ用のV型16気筒、排気量60Lのエンジンで、2014kw/2700馬力を発揮する。
これはやや大きいようだ。

鉄道用ディーゼルエンジンのもうひとつの国内大手、IHI原動機(旧新潟鐵工所→新潟原動機)は、気動車用の小型エンジン・船舶用の大型エンジンが中心で、適切なサイズのエンジンはなかった。

では、海外メーカーはどうか。
2021年現在現役のJRグループの車両で採用実績があるのは、カミンズ(アメリカ)とMTU(ドイツ)である。
カミンズのエンジンはJR東海を中心に採用実績が豊富であるが、機関車用の大出力エンジンの採用実績はない。
大井川鐵道にはカミンズ製エンジンを搭載したディーゼル機関車が存在するが、小型機関車のため出力は気動車並である。
一方、MTUのエンジンはDF200形の初期型が搭載している。
機関車での採用実績があることを優先し、MTU製エンジンを搭載することで考えてみよう。

MTUのエンジンを調べると、良いものが見つかった。
JR東日本のフラッグシップトレイン、E001系「四季島」が搭載するDML57Z-Gエンジンである。
このエンジンはV型12気筒、排気量57Lのエンジンで、1800kw/2450馬力を発揮する。

動力変換時のロスを考慮すると、ちょうどよい出力になる。
一般に、輸入エンジンは
・言語の壁により調整作業が難しくなる
・工場が国内にないので柔軟な仕様変更が難しくなる
といった問題が起こりやすい。
しかし、このエンジンは国内の鉄道車両で採用実績があり、その経験を活用することができるので、採用のハードルは低くなるだろう。

ただ、今回のケースではそこまでエンジンのサイズに差がないので、コマツのエンジンの方が総合的に見て良いだろう。
新機関車Bには2基搭載すると仮定しよう。

DF200は、1800馬力のエンジンを2基搭載し、その総重量は96トンである。
新機関車Bは、2700馬力のエンジンを2基搭載する。
当然ながら、2700馬力のエンジンは1800馬力のエンジンより重い(SSDA16V160の乾燥重量は8471kg、DF200形に搭載されているSDA12V170-1の原型SA12V170の乾燥重量は5450kg)ので、新機関車Bの総重量は96トンを大きく越えることが予想される。
したがって、軸重14.7トンでこの機関車を作ろうとすると、6軸では足りず、8軸が必要になる。
8軸では1車体に納まらないので、EH500形のような2車体連結機関車になる。
外観はパンタグラフのないEH500形のようになるだろう。
形式名は「DH200形」だろうか。

2021年3月追記
SSDA16V160であるが、調べたところこのエンジンはコマツ開発のエンジンではなく、カミンズのOEM生産品であった。
カミンズでの型番はQSK60である。
QSK60は機関車への使用実績もあり、機関車仕様の出力は1865kw/2600馬力である。

新機関車の運用線区の予想

新機関車が「DF210形(仮)」になった場合、DF200形の初期車を置き換える形で北海道地区で運用されることになるだろう。
東海地区で運用されるDF200形は2005年以降に製造された機体であるので当面はそのままであるとみられる。

新機関車が「DH200形(仮)」になった場合、これは簡単に予測がつかない。
北海道地区への投入は確実であるが、それ以外の地域にも投入される可能性が高い。
電化されていない区間だけでなく、軌道や電力設備の関係でJR世代の電気機関車が入れない可能性がある線区(予讃線の新居浜ー松山など)にも投入されるかもしれない。
JR東海管内では8軸機関車の入線実績が極端に少ない(EH500試作車が展示用に他の機関車に牽引されて通ったことくらいである)ことから、関西本線への投入可能性は低いかもしれない。

また、軸重上限が15トンの山陰本線や函館山線でも走行可能であるので、山陽本線や室蘭本線が不通になった場合、迂回列車の牽引に用いることもできる。
このメリットがあるので、DF200形の後継機にはDH200形(仮)を個人的には推したい。

2021年3月追記
3月17日、JR貨物は「JR貨物グループレポート」を公開した。
このレポートは、JR貨物グループの2030年までの長期ビジョンと、それを実現するための取り組みについてまとめたものである。
その8ページに、このような文章があった。

災害対応力の強化
災害時における迂回輸送強化のため、迂回列車運転に供する輸送機材を充実させていきます。また、災害時におけるトラック・船舶による代替輸送強化のため、代替輸送拠点となる貨物駅のコンテナホームを拡幅し、駅機能を強化していきます。

「DH200形(仮)」が、本当に実現するかもしれない。

1300トン列車は走るのか?

どんな機関車になるにせよ、開発が順調に進めば2024年には新機関車が登場することになるだろう。
だが、新機関車が配備されれば、すぐ1300トン列車を走らせることができるかというと、そうではない。
1300トン列車を走らせるには、以下の2つの問題を解決する必要がある。

① 北海道の貨物列車はほとんどが本州に直通するが、津軽海峡線や、本州側(東北本線)の機関車が1300トン高速牽引に対応していないので、本州への直通ができない。
1300トンを牽引するには速度を下げる必要がある。
北海道内に限れば、北海道新幹線の札幌開業後は特急「北斗」が新幹線に移行して在来線のダイヤに余裕ができ、貨物列車の高速運転の必要性は下がると思われるが…

② 北海道内、本州区間ともに駅に1300トン列車が収まらない。

これらの問題を解決しない限り、1300トン列車が登場することはないだろう。

補足 : DF200形のモーター

今回の記事では、DF200形や新機関車の出力についてエンジン出力で評価し、実際に車輪を駆動するモーターについては取り上げなかった。
その理由は、「実際に発揮している出力が明確でない」ことである。

DF200形の公開されているデータを見ると、モーター(FMT100形)の定格出力は320kwとある。
モーターは6個あるので、機関車全体では1920kwだ。

しかし、実際に発揮できる出力はもっと大きいと私は考えている。
そう考える理由は、DF200形のエンジン出力である。

DF200形のエンジン出力は先述のとおり3600馬力であるが、これをkwに直すと2650kwになる。
一般に、エンジンの回転をモーターを回す電気に変換するとき、その変換効率は90%程度とされている。
すなわち、DF200形のエンジンが供給できる電力は、

2650 x 0.90 = 2400kw

となり、1920kwよりかなり大きい。

機関車を設計するとき、モーターが使い切れないほどの電力を発電するエンジンをわざわざ選ぶだろうか。

ここから言えるのは、1920kwとは「連続して出せる出力」であり、どのくらいかはわからないが、短時間ならばより大きな出力を発揮できるのではないかということだ。

参考資料

カミンズ QSK60エンジンのページ
https://www.cummins.com/engines/qsk60

カミンズ QSK60エンジン搭載機関車のパンフレット
https://www.cummins.com/sites/default/files/files/brochures/5544146-09-18-Cummins-QSK-60-Rail-Stadler-Case-Study.pdf

小松製作所 アメリカ向けHPの超大型ダンプのページ
https://www.komatsuamerica.com/equipment/trucks/electric/930e-4

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?