見出し画像

2024冬ドラマ あ~しんど♪

週に20時間以上をドラマ鑑賞に費やした破綻寸前の生活が終わりを迎えました。終わってほしいけど終わってほしくない。終わりは始まり。春ドラマが始まる前に何としてでも全てのドラマを見切る必要がある。
何度も寝落ちした「院内警察」の7話あたり。一時期の我が家は、「院内警察」の前半15分が幾度となく再生されていました。再生、寝落ち、再生、寝落ち。どこまでが現実(院内警察)で、どこからが夢なのかも分からない。わたしの生活は恐ろしいほどにドラマに侵食されていました。
それもこれも終わってしまえば寂しくなるってもの…。真っ新になった録画リストを見て、心にも余白ができていることに気付きます。この余白こそ本来必要な余裕だったのかもしれません。
なぜこんなに自分を追い込む結果になってしまったのか。
わたしは情に厚い。兎にも角にも1話目を見てから判断しよう、という甘い考えが良くなかったと思います。1話を見ればもうかわいい。面白くないドラマほど面白い。面白くないことが愛おしい。
そんなわけでわたしが見てきた25本のドラマの中からいくつかを抜粋して感想を書いてまいります。


「院内警察」 

原作:酒井義、漫画:林いち
日本でも実際に「院内交番」という組織が一部の病院に設置されています。なかなか馴染のない職業ですが、その院内交番での仕事にフォーカスを当てたヒューマン・ミステリーです。
何よりもまず、登場人物たちの人物造形が不自然でした。新人事務員役の長濱ねるは、まるでナレーションの役割をやらされているかのように、全ての疑問を口に出して伝えてきます。わたしが最近引っ掛かる、好奇心旺盛何事にも首を突っ込む図太愛嬌キャラの女です。この長濱ねるもそんな様子で、無神経なほどに切り込んだり、過剰に感情移入したり、とても忙しそうでした。こういうキャラがいることでストーリーが進むのは理解できますが、もうちょっと繊細な内面的造形をお願いしたいです。
ですがこの人物造形が嫌いになれない要素の一つでもあるのです。桐谷健太演じる院内刑事は、なぜかチュッパチャプスを舐めながら登場します。チュッパチャプスを舐めながら、スカした態度で仕事をすることがカッコいいと思っているかのように。オープニングでも、チュッパチャプスの包装をスマートに剥がす映像が使われています。わたしはこのチュッパチャプス刑事が大好きだったのですが、途中からほとんど舐めなくなってしまいます。舐めながら喋るのは難しかったのでしょうか。チュッパチャプスはいつ出てくるのか…このまま出てこないのではないか…。不安になりながら最終回を見ると、あるシーンで大量のチュッパチャプスタワーが出てきます。思わず、キターーーー!と叫んだ人はわたしだけじゃないはず(?)
まあこんな楽しみ方もありですからね。好きに楽しみましょう。

「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」

天才指揮者として名をはせた夏目俊平(西島秀俊)と娘・響(芦田愛菜)が、地方オーケストラでの活動や人との関わりを通して再生していく物語です。
これはわたしがギリギリまで見進めることができなかったドラマです。心の琴線に触れる可能性のあるドラマはカロリーが高いので、消化に時間がかかるのです。覚悟が決まるまでに2か月かかりました。
このドラマにぐっと引き込まれたのは、妻を演じる石田ゆり子が、西島秀俊に思いをぶつけるシーンでした。「音楽に没頭すると家族や家のことが何もできない、あなたには芸術のためなら他のことは犠牲にしても良いという傲慢さがある。もうあなたのお世話はしない。」
西島秀俊は優しくて穏やかで、自分の主張で人を押さえつけることはありません。一見するととてもいい人なのです。だからこそ自然と周りが彼のお世話をしてしまう。愛もあるし、嫌々やっていたわけでもない。それでも振り返ってみると、夢や自分のための時間は置いてきてしまったことに気付く。
他にも、息子(大西利空)が分析する父と娘の関係性など、登場人物の気持ちや意図が分解されて、言葉として昇華されていく心地よさがありました。
芸術とは…という漠然としたテーマにも触れ、練習がすべてじゃないし、努力が理想の形で実るわけでもない。家族・芸術との向き合い方を模索した後のそれぞれの終着点も良かったと思います。

「推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~」

原作:宮木あや子「令和ブルガリアヨーグルト」
乳酸菌を推すオタク女子・由寿を演じる鞘師里保と、乳酸菌の吾輩を演じる橋本さとしの愛?と友情?の物語です。
推しが乳酸菌ってどういうことだ?と思って見始めたこのドラマ。由寿は創作小説に出てくるブルガリア菌のファンなのです。そして老舗食品メーカーの広報部に配属され、ヨーグルトの広報活動に励みます。ドラマの中の人間たちには、吾輩の姿は見えないし声も聞こえません。吾輩が、由寿のそばをウロチョロしながら応援したり心配したりしているのを、画面越しのわたしたちが見守る、という構造になっています。腸内にいる乳酸菌(できれば橋本さとしが良い)が、自分のことを見守り、支えてくれていると思うと、なんかちょっとだけ愛おしさが湧いてくる気がします。
推しがいるから、推しのためなら。自分の気持ちを分かってもらおうとは思わないけど、推しの魅力は知ってほしい。理解されなくてもいいから、否定するようなことだけは言わないでほしい。
みんなの好きが好きのままでいられますように。

「グレイトギフト」

うだつの上がらない病理医・藤巻達臣(反町隆史)が、完全犯罪を可能とする球菌(ギフト)をめぐる院内の権力争いと連続殺人に巻き込まれていくサバイバル・ミステリー。
登場人物の行動原理が謎すぎる。大味なことが嬉し楽しいドラマでした。
まず、なぜかみんな”闇の帝王”になりたがる。そもそも闇の帝王ってなんやねん。そして藤巻(反町)があまりにもぼんくら。神妙な面持ちで心の声のナレーションが入るけど、そんなこと考えなくても分かるやろ…大丈夫か?な内容で心配になる。完全犯罪に使える球菌・ギフトの存在を序盤の段階で色んな人が知っている。いやもうそれじゃあ完全犯罪にならないぜ。
しかし後半になると、それら全てが面白くなる。というか好きになっている。闇の帝王として君臨する白鳥理事長(佐々木蔵之介)に仕える男たちの「白鳥理事長のおっしゃる通りです。」が聞きたくてうずうずする。
楽しませてもらいました。

「マルス~ゼロの革命~」

大人たちがつくった腐った社会を変えるために立ち上がる、高校生たちの革命を描いた青春ドラマです。
美島零(道枝駿佑)を中心に集まった動画集団マルスの8人の高校生。彼らの少年漫画のような人物造形を、生身の人間が演じるとかなり違和感があります。演技が上手いはずの俳優も不自然に映る。脚本や演出次第で俳優たちの演技を生かしも殺しもする、ということがよく分かります。
しかしテーマとしては熱量のあるもので、その思いは十分に伝わってきました。この社会を築いてきた大人たち、正義を盾に自分の主張を正当化する人たち、それら全てを見て見ぬふりする人たち。真剣に闘っている彼らを冷笑する世間の声に屈せず、仲間を信じて突き進んでいく姿が眩しかったです。みっちーから吉川愛へ向けられた、ネット上での暴力に関する台詞が正しくて力強くて最高でした。正々堂々真っ直ぐな言葉で伝えるからこそ届く思いがある。当事者であれ。

「ブギウギ」

「東京ブギウギ」で知られる歌手 笠置シヅ子さんがモデルとなった朝ドラです。
主演である趣里の関西弁の演技が本当に素晴らしかったです(関西弁の正確さとかはわたしには分からないのですが)
戦中・戦後と、一つ乗り越えたら、次の壁が立ちはだかる。悩み苦しみ立ち止まり。それでもスズ子(趣里)のあっけらかんとした性格が、ドラマの重みをからっとさせてくれるようで、いっぱい泣いたけどそれ以上に笑うことの方が多かったです。
歌唱シーンが入るのが一週間の最終日である5日目。誰かを亡くし、思うように歌えなくなっても、心の置き所を見つけたり、覚悟を決めたり、手離したり、誰かに背中を押されたり。そうして5日目の歌で解き放たれる。スズ子が歌をうたう時は、見ているわたしたちも解放されるのです。
第22週のタイトルが「買物ブギー」という曲に出てくる歌詞の一節「あ~しんど♪」なのですが、「ブギウギ」というドラマ全体を表現しているようで秀逸だなと思いました。スズ子の「あ~しんど♪」マインドをわたしも持っておきたいです。


いほり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?