結局すべて、彼のもの。

昨夏住んだ、家族と暮らすシェアハウス。

家族もOK!と言っておきながら
入居したら1カ月もたたずに

「こんなに家族が増えるなんて聞いてない」
とか
「もともと長期滞在は向いていない」
とか
「うちの子に迷惑かけないで」
みたいなこと言われて

ぜんぜん落ち着かないし安心できる場所ではなかった。

ここの、ひとつの売りだった「キッズスペース」も
「入居者のこどものため」ではなく「息子氏のため」
だったことが、のちにわかる。

キッズスペースは、それなりに広くて
子供が5人くらい集まっても十分な広さだった。

すべり台があって、ロフトがあって、ボルダリングがあって。
台所もあった。でも、この台所と、入口扉が、
またトラブルを引き起こすのだけれど。

入居した翌日
はじめてこのキッズスペースに入った時
おもちゃがぐちゃぐちゃだった。

なにをどこに片付ければいいか、わからなかった。
だから、わたしたちも遊んだあと、それなりに片付けて
過ごしていたら、ここの代表に

「キッズスペースあそんだら、片付けてもらえると嬉しいな」
とやんわりと言われた。

「あぁ、もともとの形がよくわからなかったから、あとでおしえてもらっていい?」
と聞いたら

「うん、それなりでいいんだよ」と言われる。

それなりってなんだろう。よくわからないけど、なにをどこにしまう、という説明はしてもらえないらしい。
とりあえず汚いことはわかっていたから
じゃあ好きなように掃除させてもらおう。

そう思ってとりあえず外に出ているおもちゃをしまおうと、
ロフトの下にある収納箱に向かった。

そこには、虫の死骸がたくさんあった。

虫の死骸は、そこだけじゃない。
ボルダリングの下に敷かれているマットの下にも、びっしりと
虫の死骸が転がっていた。

ちいさなテント型の家に、ボールプールのようにボールがたくさん
転がっていたけど、おなじように、虫の死骸も転がっていた。

とてもとても、ふだんから清潔にしている様子じゃなかった。

シェアハウスには、ハウスクリーニングの人が来るけど
キッズルームは対象外。

ここは「24時間家族専用のルーム」。
クリーニングも、家族専用、というわけらしい。

うちは長女がアトピーアレルギーだったから、心配だったし
このままここで遊んでたらハウスダストアレルギーになるわ。
と思った。

もちろん、ここに長く住めたら、という願いもあったから
そうならないために掃除した。

「みんな、彼のもの」

キッズルームは入居者のこどもや家族のための部屋。

だから、おもちゃも、ひと家族がわかりやすいものじゃなくて
もっとわかりやすく、使いやすく、できればいいのに。

そう思ってもともといる家族世帯の人に相談すると
みな口をそろえて
「あそこにあるおもちゃは、彼のものだから」
とおしえてくれる。

彼、とはここの代表の息子氏のこと。

でも、その息子氏もなかなか家にいないし
その母親に
「おもちゃの相談しよう」と声をかけても

「うん、そうだね、しなきゃね」
というばかり。

捨てていいのか、部品はどこにあるのか。
これはどこのおもちゃなのか。

なにをどこに片付けるかのガイドもない。
遊ぶ人によって、おもちゃの片付ける場所が変わる。

共有リビングはきちんと決められているのに
どうしてキッズルームはめちゃくちゃなんだろう。

ガイドもなにもないのに、子供たちはどうやって片づけを学ぶんだろう。

ガイドを作りたいのに、勝手に作ってはいけない。
ようやく手を付けることができたのは、2か月後の大掃除だった。

その大掃除で、「みんな、彼のもの」という真意を知ることになる。

大掃除で片付けられたお気に入りのおもちゃ

大掃除のとき、息子氏の父親、わたし、家族世帯2世帯
単身者2人、で掃除をした。

アレルギーになりそうなぬいぐるみや、
乳児が飲み込みそうなちいさな部品を棄てていく。

それぞれがごみ袋をもって捨てていく中
ひとり、息子氏の父親だけが自己判断でおもちゃを棄てていた。

そこには、うちの末っ子が気に入っていた電車のレールが
入ってた。

私「あ、ごめん、これうちの末っ子がいま気に入って遊んでるんやけど
出してもいい?」
父親「あー、そうなんだ。うん出していいよ」
私「ありがとう。あ、でも部品足りないみたい。ここにぜんぶ捨てた?」
父親「うーん、わかんない」

そうか。わからないのか。
なんでこの人は、周囲に訊かずに自己判断でおもちゃを捨てているんだろう。

どうして、自分の息子意外に、夢中になっている子がいるかもしれないことに気づけないんだろう。

ここはコミュニティベースのシェアハウスじゃないのか。
どうして、対話もなく勝手に捨てるのか。

疑問に思っていたら
ふと、家族世帯の人が言っていた言葉を思い出した。

「キッズルームにあるおもちゃは、ぜんぶここの代表の息子のものだから」

ああ、なるほどな。
父親として息子の興味がなくなったものを捨ててたのか。

ここに入居しているこどもが気に入っているかどうかなんて
まったく関係ないのか。

家族と暮らすシェアハウスってなんだろう。
こんなにも、こどもが無関心に扱われるシェアハウスって
なんだろう。

無自覚すぎる彼らが、奇妙に見えた。


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