在野の8ヶ月
榎木です。初noteです。私が何者かについてはこちらをご覧ください。
さて、私は2019年3月末で以前勤務していた近畿大学医学部の講師を辞めまして、同4月から地方公立病院(兵庫県の赤穂市にある赤穂市民病院)に勤務しています。その経緯は以下をご覧ください。
現在地方公立病院に病理医として勤務しながら、余暇で科学技術政策や研究不正のウォッチなどの活動をやっています。大学や研究機関に所属しないという意味での在野の人間となりました。
現在在野8ヶ月。以前勤務していた病院に8年ぶりに戻ったわけで、勝手知ったると思っていた在野暮らしでしたが、思っていたことと違ったこともありました。何が違っていたのか…。
1)地方公立病院の現状はより厳しい
9月に厚生労働省が公立、公的病院の再編に関する文章を公表し、大騒ぎになりました。
幸い所属病院は再編の対象となっていませんでしたが、それでも状況は大変厳しいものがあります。
詳しい数字は述べませんが、年間10億円の赤字を計上しています。市の人口は私がいた10年前より数千人減少。周辺の地区も同様です。そうなると、病院間の患者さん獲得競争が激しくなっています。
これと同時に、医師不足も深刻で、10年前に比べて多くの診療科が一人も常勤医師がいないという状況になっています。
おかげで病理診断も10年前に比べて数百件減少。病理診断で僻地医療に貢献するぞと意気込んできましたが、病理診断の需要そのものが減っていたという状態です。
そのため、時間外勤務もほとんどない、極めて健全な働き方ができて、心身ともにリフレッシュできました。地元の飲み会などにも参加し、楽しい日々を過ごしています。
それはそれでよかったのですが、あまり地域医療や病院に貢献できていないという後ろめたさも感じたりしています。
2)大学すごいぜ
医師というのは病院を転々とすることが多く、所属機関の存立基盤というのはあまり意識することはありません。公立病院であろうと、赤十字病院のような公的病院であろうと、そして大学附属病院であろうと、目の前の仕事をしっかりとやるのみです。
ただ、大学の名前というのは、悔しいけどすごいブランドなんですよね。
私は様々な活動のために一般社団法人科学・政策と社会研究室を立ち上げ、その代表として講演などをしているのですが、あるときその肩書ではどんな人だと分からないと言われたことがあります。
同窓会に行って団体の名刺を渡しても、「ふーん」で会話が途切れたりもしました。
まあ、それは団体や私の活動がまだまだ小さく弱いためなわけで、頑張らないとなと奮起するわけですが。
3)在野とフリーランスの間に
今年は在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活(荒木 優太 編著 明石書店)が発売されるなど、在野研究がにわかにホットトピックとなったような気がします(マイブームに近いかもしれませんが)。
私も刺激を受けてYahoo!ニュース個人に記事を書いたりしました。
在野研究者には私のように仕事をほかに持ちながら余暇で活動する人もいれば、個人事業主になったり起業したりして、自らの専門知を活かした業務に従事する人もいます。
ただ、余暇型の在野研究者とフリーランサーとの間には違いも結構あります。
余暇型の活動の場合は、どうしても所属の機関の許諾が必要になります。
近年公務員の副業が一部で解禁されてきており、余暇型在野研究も可能になりつつあると思っています。
「公務員はもっと副業した方がいい」本業=神戸市職員、副業=NPO法人副理事長
私も公立病院の医師兼一般社団法人の代表理事であり、許可をえて副業しているわけです。
兼業には収入が安定するという利点もありますが、制限も当然あります。所属機関の不利益になる言動はできません。
そういう意味でフリーランスという形態に大いに興味があります。
フリーランスにも、生活のために職業をしつつ、余暇を使う形態と、専門性を使って生活するという形態があります。
そう考えると、アカデミア所属とそれ以外に明確な垣根を設けることも無意味で、研究をしたり何らかの活動をすることは、所属や立場の違いなどグラデーションの差でしかないと思います。もっといろいろな立場を行き来できればいいのですが、アカデミアから外側にいくのはだいぶ自由になったものの、外側から内側はまだ若干高い感じがあります。企業からアカデミアはだいぶ増えてきましたが。
というわけで、8ヶ月という短い在野生活ですが、いろいろな気づきがありました。思ったことと違ったことも、期待以上のこともあります。
地域医療に貢献する充実した生活を送らさせていただいていますが、フリーランスや他のやり方がより人々や地域に貢献できるのであるならば、考慮していきたいと思っています。
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