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過去の自分と向き合う〜フリーランス病理医日記 2020年7月編

赤字からの脱出

 資本金100万円。個人事務所の合同会社の原資だ。

 今まで資本金の意味など分かっていなかった。1円でも会社立ち上げられるのだし、別になくてもいいじゃん、と思っていた。

 しかし、この100万円が命綱になった。100万円から保険料を払い、備品を買った。写真は資本金を切り崩して買った軽いWindowsマシン。 Windowsでしか動かないホームページビルダーでホームページを更新という仕事があり、しかもいつ何時仕事依頼があるか分からないので、常にカバンの中に入っている。

 7月になり、やっと個人で委託されていた仕事の主なものが会社に移り、減り続けていた資金がプラスに転じた。些細なことなのだけど、とても嬉しい。

舞い込む仕事

 こちらも本当にありがたいことだが、複数の出版社から出版の依頼が来た。記事の執筆依頼も複数あり、嬉しい限り。あまりにたくさん仕事が舞い込みすぎて、果たしてやり切れるか心配になるくらいだ。実際睡眠時間は減少の一途を辿る。

 会社としても仕事のオファーが続いている。成功報酬的な仕事主体だが、しっかりとやっていきたい。

 新型コロナウイルスの感染者の増加は重くのしかかるが、1日1日を着実に過ごすしかない。健康も重要だ。

 手洗いはしっかりとやっているが、そのため手荒れが深刻。ただれた皮膚を見ながらうーんと唸ってしまうが、これは仕方ない。

過去と向き合う

 新型コロナウイルスの感染拡大もあり、連休や週末は概ねステイホームで過ごした。

 ステイホームは全く苦ではない。何故なら、私は27歳から28歳という知力体力のピークの時期を概ねステイホームで過ごしたからだ。

 大学院博士課程を休学し、医学部に学士編入するまでの1年半。ちょうどあの1999年7の月を挟んだ時期だ。そういえば、ノストラダムスの大予言を日本に広めた五島勉氏が亡くなられたという。ご冥福をお祈りしたい。

 あの時期、私にとってのアンゴルモアの大王は、博士課程を終了できなかったことか、試験だったのか。

 色々悩み大学の学生相談所に通ったことも思い出す。週一回相談所に行くことが、ステイホームの1年半の唯一の外出だった。

 そんなあの頃のことを考えれば、今こうして仕事が次々舞い込むような状況は夢みたいだ。けれど、ステイホームした私も今の私も同一人物だ。要は場所を変えて自分が生かせるところに行けば良い。

 そんなことをTwitterに書いたら、多くの賛同を得た。

 この投稿が多くの方々を励ましたとしたら嬉しく思う。これをきっかけに、もっと自分の情けない部分、隠しておきたい部分的、みっともない部分をさらけ出すことに意味があるのではないかと思い、自分の過去を赤裸々にツイートし続けている。

 過去を率直に語れるようになったのは、時間が経過したこととともにフリーランスになったことが大きい。組織に迷惑がかかるからやめろ、と言われても気にすることなく発言できるからだ。もちろん個人攻撃や誹謗中傷は絶対しないようにしている。

 また、フリーランスになったことで、自分を飾らなくても、取り繕わなくてもいいというのもある。博士中退しました、研究室を追い出されました、といった過去を聞いたら、おそらく少なからぬ組織が私のことを警戒するだろう。今はそういったことを気にする必要ないから、率直に語れるのだ。

 tweetしているうちに、自分でも忘れていた過去の様々なことを思い出した。それは時に重く苦い経験。あたかも水の底にいるかのよう。当時の思いがタイムカプセルを開けるかのように蘇る。

 ただ、どの経験も今の私を形作っている貴重なものだ。否定したりなかったものにしたりすることはない。

 今は亡き友人Y君などは、私のこうした経験を自分のことのように感じ、怒ってくれた。私がもういいよ、というのも聞かず。そんな友人と2度と会えないことが悲しい。

 昔の自分と向き合うことで、そしてこうした過去が多くの人たちの共感を呼んだことで、これから何をするべきかが見えてきた。

 世の中に成功体験を聞く機会はあっても、失敗体験を聞く機会は少ない。

 逆転人生しくじり先生など、過去の失敗談を語る番組もあるが、少なくとも一度は世に名前が売れた人たちが出るのが常だ。

 私が成功者かどうかは、成功をどう定義するかによるが、少なくとも誰もが知る有名人というほどではない。そんな私の体験談を知りたい人がいる。実は世の中は、私のようにしょぼくても、生き残っている人間のリアルな話を求めているではないか。

 実はこのコンセプトで、既に動き出しているものがある。

 岩波書店ウェブのリレー連載「アカデミアを離れてみたら」だ。

 研究歴がある方々が、多様なキャリアを歩むに至る体験談。この連載に人を紹介するなど、多少ではあるが関わっている。

 こうしたロールモデルの紹介は、サイエンス誌のサイト「サイエンスキャリア」などが既に行っている。こうしたことをやっていきたいという思いがより強くなっている。

 さて、なんとか生き延びた7月が終わった。

 真夏なのに感染が拡大する新型コロナウイルス。果たして8月も生き残ることができるのか。

 また1ヶ月後に報告することにしよう。 

 

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