夫と『あとラクミスト』
夫と歩いていて、ドラッグストアに寄るか寄らないかという話になり、私も見たいものがあったので、じゃあ寄るか、ということになった。
私はBCAAをいろいろ見比べたあげく結局何も買わなかったのだが、夫が何か購入した。何の気なしに「何買った?」と聞いたら、なぜか少しためらったあと、
「聞かれるまで言わないでおこうと思ってた」
と、『あとラクミスト』を袋から出した。『あとラクミスト』とは花王の製品である。
食器にかけておくと、たしかにあとからラクにきれいになる気がする、良い商品である。以前も夫が買って、シュッシュとかけていた。
ちなみに夫はあまり洗い物しない、というか、どうせ手を付けるのが遅いので結果私がやることになるんである。この新型コロナ禍、夫婦で在宅時間が増え、食器もよく使うようになり、ひいては洗い物も増えた。私にとっては手間が増えたのだが、在宅ワークの間の“立ち上がれる時間”として、内心やぶさかではない。
ただ、このまま「やらなくて良い」という結論は避けたいのと、忙しいと普通にイラッとするので、時々オーラで圧をかけている。
そうしたなかの『あとラクミスト』。
「?? なんで言わないでおこうと思った?」と問うたところ、以下のような回答だった。
「バレると『またそれをかけただけで洗い物に参加したつもりですか??』ということになる。洗い物の全行程を考えると、打合せにちょっと参加しただけで『ああアレ? 俺がやった企画だから』と言いふらすようなものだ。印象が悪い」
まあそうだ、と。たしかに私は買わない。お子さんなどがいるご家庭ならともかく、後回しにしなければいけない事情などない。すぐ洗ってしまえばいい。
「アレおれはたしかに印象が悪いね。しかし、前回使ってみて思ったけど、いい商品だよ。自分だけだと、そういう新しいコンセプトの商品を使う機会もなかなかないからね」と答えたら、
「それは……なんというか、あたたかい答えだね。俺ならアレおれ野郎は許さない。しかも、正直、買う動機が、あとからラクになればとかいうんじゃなくて匂いが好きだからなんだよね」
と。帰って、自室に置きっぱなしだった食器をシンクにいれて、買ってきた『あとラクミスト』をシュッシュと振りかけていた。
「ほら。この匂いがいい」
だから今洗えって。
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