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合奏で合わない時の勘違い

合奏では、肺による呼吸を合わせると音の出だしが合わせられる、という話があります。しかし、これは一時的対策としては、良い方法ですが、ずっと使う方法ではありません。実は、肺呼吸を合わせても音はそれほど合いません。大体は合いますが、注意が肺呼吸に向かっているので、音の出が合っているかどうかには注意が向けられていません。そのために、微妙にずれてしまうのです。そして、たとえば、チェロとバイオリンでは音の立ち上がり方は異なり、底弦の方が立ち上がりには時間がかかります。音を合わせるには音の出だしではなく、立ち上がった時の最高点の位置を合わせなければなりません。この微妙な合わせは、肺呼吸を合わせたら、むしろできなくなります。

音出し、アインザッツと呼ばれることもありますが、これが合わない時、チェロが遅れている、などという犯人探しはやめたほうがいいです。なぜなら合奏をお互いに聴き合っているので、実はチェロが遅れたのは、その前のバイオリンが遅く弾いたからという場合があります。そして、場合によっては、チェロが遅い、いや遅いのはバイオリンだ、と全く異なる意見になる場合も普通にあります。もちろん多数決を取るなんてことは意味はありません。また、指揮者や練習を聞いている第三者、そして録音を聴いても、本当に微妙だったりするので、やはり犯人はわかりません。

上記の問題の多くは、明確な原因があります。その中で最も多い原因がタクトで、またこの原因はほとんど気がつかれません。日本人は特にタクトを軽視しているからです。原因はタクトだ、という話も、おそらく多くの人はここで初めて聞いた、となるでしょう。タクトはテンポとともに音楽の進み方を決めています。しかも時計のように1拍子で均一に進むのではなく、小節というグループを作って進みます。その感じ方が異なるとずれてしまうのです。しかもタクトは変化しますから、その変化の仕方が一致していないとずれてしまうのです。フレーズの頭のアインザッツでさえ、タクトの感じ方が一致していれば、お互いに顔を見なくてもきちんと一致させることができます。お互いにアインザッツを合わせようとして顔を見て様子を伺うようにするとタクトが変な感じに変化して伸びたりしてしまい、音楽の流れが不自然になる場合をよく見かけます。しかし、ねらいであるアインザッツは合っているので問題には気が付きません。

合わない時、全員でタクトを一致させるようにします。それはタクトを体で感じることを一致させることになります。具体的には、例えば、タクトを口で、タン、タン、タンと、こんな感じでと示し、他の人もそのタクトを口と頭の中で繰り返して体になじます。または、メロディを弾いてみせ、そこから他の人はタクトの進み方を知ってそれを身に染み込ませます。指揮者なら棒ではっきり見せることもできるでしょう。もちろん個人練習で、タクトをきちんと取りながら弾く練習は不可欠になります。

さて、合奏では1st Vnに合わせるということを絶対視する場合がありますが、これも違います。いわゆるメロディに合わせるのは、長く取ったフレーズが新しく変わる時の変わり目くらいで、フレーズの途中では、チェロバスなどの伴奏はきちんとタクトを刻み、それに合わせてメロディが歌うのです。伴奏がタクトをきちんと刻んでいるからこそ、メロディはルバートしたり、戻したりと自由に歌うことができるのです。もし、ルバートに伴奏が合わせ過ぎてしまうと、むしろタクトを戻そうとしたメロディパートに伴奏が追いつけず、非常にメロディは弾きにくくなり、イライラした演奏になってしまうでしょう。

タクトは大事と言ってもほとんどの日本人は、へえ、で終わってしまうのですが、音楽の進み方を決めるのがタクトですから、アインザッツなどが合わない時はそこに原因があるとまず考えるべきですし、また、歌いすぎて酔っ払いのようなメロディになったり、ただ賑やかなだけでノリの悪い演奏になったりするのは、ほとんどタクトに原因があります。もちろん舞曲でタクトが感じられない演奏になっているのは、よく見かけますが、時間をかけて舞曲のタクトを練習するととても良い練習になります。


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