あの頃のバイク。【CBR900RR FireBlade】
●エンジン出力には頼らない。“軽さ”に賭けた、ホンダの挑戦
「バイクの操縦性を高めるカギは、軽さにあり」
ホンダの開発陣は、際限の無い当時の出力競争に見切りをつけ、別角度のアプローチで1台のスポーツバイクを生み出しました。
CBR900RR FireBlade。
その軽く小さくまとまった車体の中には、操る愉しみがぎっしり詰まっていました。
今回は、そんなCBR900RR FireBladeについて、ご紹介したいと思います。
●リッタースーパースポーツの祖
ホンダのスーパースポーツ、CBR1000RR。
昨年登場したCBR1000RR-R(SC82型)が登場し、脚光を浴びたのが記憶に新しいですね。
このCBR1000RRのルーツを辿って行き着くのが、1992年にデビューしたCBR900RRです。
CBR900RRは、結論から言うとヒット作となりました。
ヒットした一番の要因は、大型バイクらしからぬライディングフィールです。
CBR900RRは、ほぼ1,000ccの排気量を感じさせない軽量コンパクトさと、それに由来するコントロールのしやすさから、とくにスポーツライディングを好むライダーから大きな支持を集めることとなりました。
そのスポーティなキャラクターは、世のスポーツ派ライダーたちに「NSR250Rの900cc版」と言わしめるほど。
そしてこのCBR900RRの登場以降、パワーだけではない総合的な運動性能を追求したビッグバイクが各メーカーから出てくるようになります。
1998年デビューのヤマハYZF-R1によりリッタースーパースポーツの世界は大きく花開きましたが、CBR900RRはその土壌を暗暗のうちに作っていたと言えるでしょう。
CBR900RRは、「CBR1000RRの祖先」にとどまらず、「リッタースーパースポーツの祖先」と表現してもいいかもしれません。
●「ビッグバイク=鈍重で当たり前」の時代に
CBR900RRが生まれた背景には、当時のビッグバイクの宿命がありました。
つまり、ビッグバイクは文字どおり“大きく、重くなる”ということ。
今でこそ、排気量はリッターオーバーで車格は600ccレベルというようなバイクも少なくないですが、CBR900RRの開発が始まった1980年代というのはまだまだ開発技術が発展途上の時代。
レーシングマシンならともかく、量産市販車では安全性や生産コスト等、様々な課題をクリアせねばならず、大きなエンジンを小さな車体に載せるというのは、そう簡単に実現できるものではありませんでした。
そしてその宿命ゆえ、大きく重いビッグバイクというのは一般のライダーが積極的に操れる乗り物ではなくなっていたのです。
そのようななか、ホンダのエンジニアたちが打ち出したのが「バイクの操縦をアクティブに楽しめるような、軽量コンパクトな大型スポーツを造ろう」というアイデアでした。
エンジンパワーや迫力ではなく、まず第一に軽量コンパクトを優先する。
ダウンサイジングの考え方が普及して久しい現在ではなんてことのない発想ですが、当時大型モデルにこのアプローチを仕掛けるというのはなかなかチャレンジングなことでした。
CBR900RRの開発は、ビッグバイクの新たな可能性を追求するホンダの挑戦だったのです。
●驚異の185kgを目指して
軽量コンパクト優先のコンセプトどおり、CBR900RR(以下、900RR)の開発でまず決められたのが、バイクの重さです。
乾燥重量185kg、装備重量200kg以下。
ZZR1100やGSX-R1100等、当時トップクラスの高性能を誇った大型スポーツモデルが、装備重量で軒並み250kg以上あったことを考えると、この数字がいかに現実離れしたものか分かるのではないでしょうか。
実は900ccという排気量も、この車重を達成するために設定されたものです。
単に出力向上を狙うなら1,000cc以上にしたほうが当然良いのですが、排気量をそこまで拡大するとエンジンの単体重量が重くなりすぎてしまうことから、900ccとなりました。
また、逆に主流だった750ccにしなかったのは、900RRがあくまでも「公道のワインディングを楽しむ」ことに主眼を置いたバイクであり、わざわざレースの規則に準ずる必要はなかったからです。
最高出力は124ps。
数値だけを見るとZZR1100などに水をあけられていますが、これも900RRの開発コンセプトに基づき、公道を楽しむにはこれで充分という考えから導き出されています。
さらに、エンジンが直列4気筒であることも、実は900RRのコンセプトと深く関わっています。
900RRは1988年から開発がスタートしましたが、この頃のホンダと言えばVFR750R(RC30)に代表されるように、V型4気筒エンジンに力を入れていました。
しかし900RRの場合、V4ユニットでは理想の車体ディメンションにできないこと、また、フラットな出力特性のV4では乗り手に高揚感のあるフィーリングを提供できないということで、直列4気筒が採用されたのです。
フレームはアルミ製のツインスパータイプ。
一見何の変哲も無いですが、断面は3本のリブが入る目の字型となっており、また、フレームの厚みも一定ではなく、部位によって微妙に変化がつけられています。
細かく手が入れられた結果、900RRのフレームは、高剛性を得つつ単体で10.5kgの軽さに仕上がりました。
足まわりも注目しておきたいポイントです。
900RRは前輪が16インチなのですが、当初は17インチで開発が進んでいました。
しかし、17インチでテストを行うと、タイヤの接地感が希薄というスポーツバイクとしては致命的な症状が出たのです。
これは900RRのホイールベースが短いことが原因で、この症状の解決策として選ばれたのが16インチでした。
16インチというと「クイックなハンドリングを狙い、あえてそうした」と思われがちですが、900RRの場合は接地感をもたせる必要性から、そうなったのです。
また、当時はすでに倒立フォークや湾曲スイングアーム等の採用例が増えつつありましたが、900RRにはより軽量にできる正立フロントフォークとシンプル形状のスイングアームが備え付けられました。
他にも、カウルの穴あけ加工など、軽量化&マスの集中のための工夫が随所に施され、900RRは目標とされた乾燥重量185kgを見事に達成。
装備重量は206kgで目標へはわずかに届きませんでしたが、それでも、ほぼ理想どおりのバイクへと仕上がったのでした。
そして開発が始まってから4年後の1992年、900RRがついにデビュー。
当時は、車重200kg前後のオーバーナナハンマシンは他にドゥカティの900SSくらいしか無く、900RRは軽い大型スポーツを求める層を独占する状況となり、結果発売初年度に2万台以上が売れていきました。
以降、「CBR」の名はホンダのスーパースポーツを示すブランドとして確立し、900RRはモデルチェンジを繰り返しながら2000年に929RR、02年に954RR、そして04年に1000RRへと進化を遂げていくこととなったのです。
●平成以降のスポーツバイクの在り方を示した存在
デビュー当初は、やや変わり種的存在だったCBR900RR。
しかし現在の目線で改めて見ると、900RRはまさに“スポーツバイクの正統”です。
エンジンパワーではなく、軽量コンパクトに由来する扱いやすさで勝負するという発想は、まさに今主流となっているそれと変わらないからです。
開発がスタートしたのはまだ昭和の頃でしたが、900RRの造りこみは令和の現在にも充分通用するものだと言っていいでしょう。
正直私は、900RRは今販売してもそこそこ売れるのではないかと思っているくらいです。
いや、でも実際には、その必要はありません。
なぜなら、900RRのDNAは、しっかりと現行のCBR1000RR-Rに受け継がれていますからね。
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